<24>







とても嫌な夢を見た気がする。

内容は思い出せないけれど、胸には悲しいという感情が残る。
何かに追いかけられていたような気もする。
寝ぼけながら時計の針を確認するとまだ5時を回ったところだった。
昨晩なし崩し的にベッドへ行き、結局そのまま疲れ果てて眠ってしまった。
隣の浩樹を見ると気持ち良さそうな顔で眠っている。
言い出さなければいけないと思いながら、最後まで言葉に出せなかった。


「やっぱりダメだ。僕たち、一緒には居られない。」


眠っている相手に向かって呟く。
伝えたい思いのはずなのに、何故か聞こえていないことを願ってしまう。

矛盾ばかりだ。


「ふっ・・・」


自分の臆病な考えが笑えて、思わず笑いがこみ上げる。

そっと浩樹の髪を撫でた。
こうやって髪を触っているだけでも幸せなのに、僕らは幸せにはなれない気がする。
どうして、だなんて馬鹿な問いかけはあまりにも無意味なのものでしなかった。
このままこうしていたい。浩樹が目を覚まさなければいいのに。
心中する人達の気持ちが今なら判る。


一緒に居れない生を選ぶより、一緒に迎える死を選ぶんだ。


浩樹の髪を撫でていた手を頬に下ろし、そこからさらに下に。
その逞しい首筋をさわり、喉仏を指でなぞる。
ここを絞めたらどうだろう。
微かに手が震える。
一息つき、手に力を込めようとした。
しかしそこまで来て、その妄想が甘美ではないことに気づいた。

僕にはそこまでの覚悟は持てない。
自分の生に対する執着は薄くても、浩樹のそれを奪うことなど在り得ないと判っているからだ。
浩樹には、家族がいる。
夫として、息子として、そして父親としての浩樹を、僕のこの狂った思考が奪ってはいけないんだ。

僕は一息つくと浩樹の首から手を離し、背を向けた。


「そのままやってくれてよかったのに。」


背後からいきなり声が聞こえて僕はビクッと震えた。


「優樹に殺してもらえるなら本望だよ、俺は。」


後ろから抱きしめられる。
起きてたんだ・・・。起きてされるがままになってた。


「いつから起きてたの?」


「なんか髪なでなでされて気持ちいいなぁと思いながらうとうとしてたら優樹だった。」


「殺すわけないだろ。僕にそんな度胸ない。」


「そうかな。優樹はいつも俺の想像をいともたやすく超えてくる。良い意味でも、悪い意味でも。」


「馬鹿なこと言ってないで、まだ起きるには早いから、寝させて。」


「馬鹿なんかじゃない。俺本気だから。その気になったらいつでもやっていいよ。」


「知らない。そんな話し聞きたくもない。」


乱される心を知られたくなくて、わざと冷たく言い放った。
すると腰の辺りに熱くて固いものが押し当てられる。
それが何か判って、僕は赤面した。


「目、覚めちゃった。」


後ろから回されている手が僕のパジャマのズボンの上から下半身をまさぐる。
朝だということも手伝って、そこはすぐに形をもちパジャマの布地を押し上げた。


「ん・・・だめ。寝させて。」


「こんななのに?」


そう言うと僕の立ち上がったそれをやんわりと手で掴みつつ、自らのをさらに腰に擦り付けてきた。
今、あんな話したばかりなのに・・・。
困惑と罪悪感と、変な気持ちにぐるぐるしながらも、体は正直で。
昨夜もあんなにしたことを頭の片隅に残しながらも、再び快感の波に飲まれてしまった。
浩樹の指が僕の下着の中に入り、直にそれを包む。


「ほら、もうこんなにぬるぬるしてる。」


そう耳元でささやきながら包み込んだそれを上下に扱かれる。


「あっ・・・やっ・・んん。」


昨日もさんざんしたばかりなのに、体は飽くことを知らずに熱を求める。
僕の感じるポイントを知り尽くした指は 息をつく暇もないほどに僕を上り詰めさせる。


「だめっ・・・も・・・でちゃう」


あっという間に寸前まで高められ、必死で快感の波をやりすごそうとする。


「だめじゃないでしょ?いい、でしょ?・・・優樹。イってもいいんだよ?」


そう言いながらも浩樹は僕の中心をぎゅっと握り、迸ろうとするそれを堰きとめた。


「・・・っく・・ん。ひ・・・ろ!いじわ・・・るっ。あっ・・・ん」


「手でイっちゃう?それともココに欲しい?」


もう片方の手で奥まった入口をなでられた。


「ひっ・・・あぁ・・・ん」


「あれ?もうヒクヒクしてる?」


そう言うとすでにベトベトしている僕の先走りを指にとり、後ろをほぐされる。


「さっきしたばっかりだからもうとろとろだね。ここに欲しい?」


もっとすごい快感を知ってるから、早くたどり着きたくて僕はカクカクと頷いた。
すぐにでも欲しい。浩樹の熱いものが。


「ふふっ。欲しがりだね。優樹は。」


笑いながら浩樹は僕のパジャマのズボンを下着ごと下ろした。
下着を下ろされ、その瞬間を待つ数秒が一番恥ずかしい。
欲しがる気持ちを抑えながら、どうしたらいいかわからなくなってしまうから。
そう思っているとうつ伏せにされ、高く腰を上げさせられて。


「入れるよ?」


「・・・ん。」


始めは先でつつくようにして入口を撫で、徐々に深くそれを突き刺していく。
慣れた行為とはいえ多少の苦痛が伴う。
しかしそれもすっぽりと収まると体の奥に脈打つものを感じ、じわじわと熱が広がってきた。


「動いていい?」


じっくりとそれを感じながら、浩樹の声を聞く。


「・・・っ聞くなよ。」


浩樹の想いがビシビシ伝わってくる繋がりを感じたくて、自分から腰をくねらせた。




「っはぁ・・・あっ。」




「くっ・・・。」




自分からも腰を突き出すとそれに呼応するようにして後ろから律動を感じる。






「あっ・・・あっ。」






駄目なのに。






「はぁっ・・・も・・。」






一緒に居ちゃ駄目なのに。






「だめっ・・・。」






何でこんなに、好きなんだろう?






快感の波に攫われながら、胸の奥にズキズキとした痛みを感じていた。











流されている。
あの日から何度も何度も、自分の気持ちを伝えようとして浩樹の帰りを待っている。
でも仕事から帰ってきた浩樹に別れを切り出そうとしても、それを言わせてくれない。
浩樹も感づいているに違いない。
僕の心の中に渦巻く罪悪感、戸惑い。
いや、結局は僕が言いたくないからいけないのだけれど。











心が再び迷い始めた日から、1週間が経とうとしていた。
相変わらず浩樹は毎日帰ってくる。
あちらの家には帰っていないようだった。


僕はというと、日中外出することが多くなった。
母親は、絶対にまた来ると言っていた。
今度会えば正常でいられなくなる自信がある。
数日前の来訪の時のように手足が震え、マイナスの感情をぶつけられれば
きっと壊れてしまうだろう。今以上に、だ。
逃げているとはわかっている。
駄々をこねる子供のようだということも。
それでもあの恐怖から逃れられる方法はそれしか考えられない。


家にも、どこにも居場所がないみたいで
なんだかおかしかった。


その日も、いつものように浩樹が出社した後
家の片付けを済ませ外に出てきていた。
とはいっても出歩くのが好きではない僕には行くところなど限られている。
公園だったり、図書館だったり、喫茶店だったり。
手伝いとはいえ、仕事だって一応ある。
駅前のネットカフェに入り今週中に仕上げなければならない文書の翻訳をした。
与えられている仕事はさほど多くない。
午前中には大方書き上げ、後の時間をもてあましていた。
ネットカフェに居ても無意味に金がかかるだけなので
近くの公園に行き、暇をつぶす。
日差しが強いので木陰にあるベンチを探して座った。


「はぁ・・・。」


溜息が出てしまう。
ボストンに居た頃も休憩時間のたびに公園に来ていた。
穏やかな気持ちの時も、なんだか寂しい気持ちの時も、どんな時でも公園に来ると落ち着く。
都会の喧騒の中そこだけが切り取られた空間みたいで、木々を眺めていると癒されたものだ。
アメリカはいろんな人がいるから、その中で一人でいても何故か安心した。
僕みたいな人間がいても良いのだと。許されているような気がして。


けれどここは日本だというのに落ち着かない。
僕はここに居ていいのだろうかと本気で思う。


せっかくいい天気だというのに、そんなことを考えながら地面ばかりを眺めていた。


すると、僕に向かって足音が向かってくることに気づいた。
なんだろうと思って顔を上げると


そこには


「あ・・・。」


思わずマヌケな声を出してしまった。


遠いあの日。
浩樹と、和人君と、その隣にあった笑顔。
うちに何度も遊びにきていたから判る。


大人になってずっとキレイになった・・・。


「お久しぶりです。優樹さん。」


「晶子ちゃん・・・。」










今の、浩樹の妻である女性がいた。







         







20010/9/3












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