一ヶ月:Prologue


飛行機に乗るのは好きではなかった。
離着陸するのは耳鳴りがするし、足もむくむ。
それでも今回のフライトはなぜかそこまで沈んだ気分にはならない。
かと言って、ワクワクするような楽しさがあるわけではなかった。
理由はわかっている。
この空の向こうには好きな人が待っているからだ。
逢いたくて、逢いたくて、でも逢ってはいけない気がした。
そばにいれば好きな気持ちを抑えきれなくなってしまうから。
絶対に好きになっちゃいけない相手。
でも離れている距離に反比例してどんどん忘れられなくなっているのにも気付いていた。
だから正直今回の帰国も完璧に乗り気ではない。 やっと逢える。
けど逢ってしまってはいけないような気もする。
まもなく着陸をあらわすランプが点灯したころ、僕はうれしさと不安の入り混じったため息をつかなくてはならなかった。

入国手続きを終えてゲートを出ると、そこには家族が待っていた。

「おかえりなさい、優樹」

ウチの母親は会わない間に少し白髪が増えたような気がする。
そして・・・

「おかえり。」

「ただいま、浩樹」

浩樹・・・ずっと会いたかった。
僕の おとうと
そして


僕の 好きな人



浩樹はどこか照れくさそうに僕の荷物を持ってくれた。
僕たちは車で家路についた。

1年ぶりの我が家。
成田から高速道路を使って2時間くらい。
僕の実家は多摩の新興住宅街の一角にあった。

車の窓ガラスからはだんだんと見慣れた景色が入ってくる。

それとともに異国の生活では封じ込めていたいろいろな記憶が蘇ってきた。

僕は今アメリカのシアトルにある大学に通っている。
シアトルは今じゃ大リーグのマリナーズでよく知られている都市だけれども、とても良い町だ。
ダウンタウンはすごく栄えていて、特に港の周りがにぎやかだ。
少し中心部を離れると自然がいっぱいあってキレイな町。
大きな湖があってそこにかかる長い長い橋を渡っると、ベルビュースクエアという巨大ショッピングモールなんかもあった。
僕が勉強していたのはシアトルのあるワシントン州の州立大学で、広大な敷地の中にたくさんの施設がある。
建物は古い建物が多く、レンガづくりの落ち着いた町並みが特徴的だった。

今の生活はとても充実している。
日本人以外の様々な人と友達になれたし、そのおかげで随分成長できたと思う。
良い環境の中で良い仲間に恵まれている。

しかし僕は自分から海外留学を望んだわけではなかった。
強制的に、海外留学をさせられたのだ。
理由は僕の恋愛にまつわること。
いや、僕らのと言った方が正しいかもしれない。

僕は絶対に好きになってはいけない人を好きになった。
他でもない、自分の実の弟。浩樹に・・・だ。
華奢な僕とは違って男らしい体格の浩樹。
そんな裕樹に兄のくせにいつも守られて育った。
僕の中で一番安心できるのは浩樹のそばだった。
それが恋愛感情に変わったのはいつだっただろう。

そう、確か僕が高1、浩樹が中2の時。
そのときすでに浩樹の身長は僕をゆうに越していて。
バスケで活躍していた浩樹はとても輝いていた。
そんな訳だからみんなに人気があったし、とてもモテたんだと思う。
僕はそんな弟が誇りでもあった。
しかし浩樹がはじめて家に「彼女」を連れて来た時、僕の心臓は初めての警鐘を鳴らした。

ボクノ ヒロキヲ トラナイデ!

僕はこの感情が嫉妬だってわかった。
そして、同時に浩樹のことが好きだってわかってしまった。
それからは苦悩の連続だった。
同性同士で近親相姦。
救いようがない。
それにこの想いが叶うことなんてないと思ったから。
自分の絶対に果たされることのない想いに気付いた瞬間、僕は苦痛に満たされた。
すべてのことに希望がもてなくなった。
そしてどうしようもない自己嫌悪。
弟への劣情を、僕は自分自身で許せなかったんだ。
次第に精神不安定になっていった僕。
そんな僕の壊れそうな心に気付いてくれたのは浩樹だった。

僕は高3に上がった頃、リストカットをしたことがある。
つらくて、くるしくて
死にたいとかじゃなくて、無性に手首を傷つけたくなった。
手首から流れる血を見たかった。
傷一つない手首を眺めているうちに、気がついたらカッターナイフの刃を出し、スッパリと左手首を切った。
発見したのは浩樹。
血をとめどなく流し、だんだんと意識を失っていく僕を抱きかかえた。

「死ぬなよ、死ぬなよ!!優樹!オマエがいなくなったら俺はどうしろっていうんだよ! 俺はオマエが好きなんだよ!!!」

ウソだと思った。
死に際のイカレタ頭が見る幻想だと思った。
でも俺が目を覚ました時弘樹はもう一度言った。

「さっきの、聞いてた?」

僕はなんて答えたらいいのかわからなくて目をまばたきさせるだけだった。

「俺は優樹が好きなんだ。もう兄弟の範疇を越えてる。オカシイよな。変態だよな。でもオマエが好きだ。 自分でも変だと思う。打ち消したくていろんな女と、男と寝てきたけどやっぱり最後に行き着くのは優樹なんだよ。 優樹が一番好きだ。抱きたいと思うのは優樹だけだ。だから・・・俺のこと軽蔑してくれてもいいから、頼むから俺の前からいなくならないで・・・」

そう言った浩樹は泣いていた。
涙は流れていなかった。
しかし心が泣いているのがよくわかった。

幸い浩樹が隠して手当てをしてくれたから、親は俺が手首を切ったことを知らない。
これは僕と浩樹の間だけの秘密になった。
そして、この時僕らの間にはもう一つの秘密ができたのだ。

お互いが、恋愛感情を抱いていること。

それからというもの、親の目を盗んで愛し合った。
いけないことだと頭では理解していながらも好きな気持ちは止められなかった。
僕は何度も浩樹に抱かれた。

それを、母親に見つかったのだ。
当然母親は僕たちの関係を激怒した。
そしてそれ以上に男を受け入れる方の僕に嫌悪感を抱いた。
軽蔑したような視線を受ける日々が続いた。
そして出した結論。
俺たちは別れる。・・・と。
しかしこれに浩樹は納得しなかった。
自分の思いを曲げない浩樹がますますいとおしく思えた。
それでも僕は別れることに同意した。そして親が進めた海外留学の話を受け入れた。
僕は親から受けた軽蔑のまなざしに耐えることなどできなかったのだ。
一刻も早く外に出たかった。
僕をちゃんと愛そうと、なんどもなんども言ってきた浩樹から逃げ、僕はアメリカへと旅立った。

僕は、もう浩樹を愛さない。

そう決意した。

それから1年。僕は日本に帰らなかった。
浩樹に会うのが怖かったからだ。

そして今日いよいよ帰国した。
いつまでも逃げているわけにはいかない。
浩樹の想いを跳ね除け、自分の想いを抑えること。
浩樹のそばで笑っていられるために、僕はこの二つを成し遂げなければならないと思った。

帰国するのはわずか1ヶ月。

僕は君を愛しつづけるために、想いを決して打ち明けたりはしないよ。






いかがでしたか?「一ヶ月」
3000HITを踏んまれたタテハ様のリクエスト『実兄弟 弟×兄モノ』です。
タテハさん、キリリクは初めてとのことですがご満足いただけたでしょうか???
私もリクエストされるのが初!なのでかなりドキドキものですよ〜。
アヲイは兄弟モノ大好きなんですね。
私が大好きな某サイト様の兄弟モノを読んでからどっぷりとハマリまして・・・。
だからいつかは書くつもりでした。
ただあまりにもいろんなのを読みすぎているせいか自分の表現とかオリジナリティが持てるか不安でした。
そして、今必要に迫られて書いた・・・ワケです。
好きな設定なのでおそらく短編では書けません。
・・・ということでこの話は続きます!(断言)
っていうかここで終わるなよ!!という感じだったと思います。(アハ)
しばらくは連載がありますので書けるかわかりませんが、書きます。
「一ヶ月」というタイトルなのにその始まる前で終わってますものね(笑)
あえて正しいタイトルをつけるならば「一ヶ月を乗り切る前の優樹君の心構え」でしょうか。(爆)
このあと彼らが一ヶ月をどうやって過ごすのか、楽しみにしていただければ幸いです。
忘れないでね・・・(遠い目)

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