White Xmas with you

the sequel to First Love
2003 Xmas & 20000HITS request

12月24日。イエスキリストの誕生日の前日であるその日の朝、マンションの窓から外を見ると一面の雪景色だった。
空には重たい雲が占拠していたが、眼下に広がる景色は雪の煌きに満ち溢れていた。
真っ白い世界をぼんやりと見つめながら息を吐くと、窓ガラスが曇る。
しんしんと降り積もる白という色が僕を後押ししているようだった。

大丈夫。きっと。

僕はずっと考えていた。
今日はきっと自分にとって転機になるであろう、ということを。









お昼頃、僕は姉さんと隆平さんと一緒に「sol」を訪れた。
今日はお店を貸切にして、クリスマスパーティをしようということだった。
本来ならクリスマスはかきいれ時かもしれないけど、とことんのん気なオーナー約2名はそんなことはお構いなしである。
気のあった友人を交えてのパーティとあって、僕らは昼間から準備をしなければならないのだ。


「おはよー。」


僕らが店に入っていくと、すでに濠さんがキッチンで何やら下ごしらえをしているところだった。


「おう、おはよう。今日も寒いな。」


「そうねー。でもホワイトクリスマスなんて久しぶりじゃない。なんかうれしいな。」


「何乙女なこと言ってんだよ、そんなこと言ってる場合じゃねーだろ。ちゃんとあったかくしろよ。今が一番大事な時期なんだから。」


「うん、そうね。ヤダ、濠ったら優しいじゃない。」


濠さんの指摘する通り、姉さんはお腹の中の赤ちゃんがだいぶ大きくなってきていた。
だんだんと歩くのも大変になってきている。


「俺はいつでも優しいんだよ。な、淳。」


「ホント。彼女がいないのが不思議なくらい。今日のパーティは寂しい濠さんのためにやるんでしょ?かわいそうですね。」


「おい、ふざけるな。俺だってなあ・・・」


「いないんだろ?」


そこに、絶妙のタイミングで隆平さんがツッコミを入れた。


「まぁそうだけど。」


「ぷっ」


口ごもる濠さんが可笑しくておもわず僕と姉さんはふきだした。


「おい!そこのガキ!笑うな。俺だってなぁ、高校の時はそりゃあもうブイブイ言わしてたんだからなぁ!」


「はいはい。わかったよ。ブイブイね。」


「お前なぁ・・・。もういい。早く手伝え。」


「はーい。」


それから濠さんが料理、僕はその補助をした。
隆平さんはテーブルセッティングや飾り付け。
姉さんは座りながらできる皮むきなどをやっていた。

去年まではクリスマスはたいてい姉さんと二人だったけど
今年はこんなにもにぎやかで、たくさんの人たちと過ごせる。
来年はきっと新しい家族が出来ているだろうし。
包まれる温かな雰囲気がみんなの顔をほころばせた。




夕方の17時頃になると辺りはすっかり真っ暗になってきていた。
それとは打って変わって店の中では温かい色の照明ときれいなキャンドルの数々、それからクリスマスツリーのライトで輝いている。
テーブルの上には濠さん、隆平さんが作った料理が着々と並べはじめているところだ。
特製チーズのスモーク、海の幸のサラダ、ミートローフ、ほうれん草ときのこのフィットチーネなどなど。
どれもいつものメニューよりさらにスペシャルなパーティ料理だった。
そしてなんといっても今オーブンでじっくり焼き上げているローストチキンは一羽まるごとを使っている。
焼き上がりが近いことを告げるように香ばしい匂いがフロア全体にただよってきていた。

今日はそれぞれの友人やお店の常連さんなんかも来ていてだんだんと賑い始めていた。
大体のメンツがそろい始めた頃、ちょうどすべての準備が整いパーティを始める時がやってくる。
グラスに注いだシャンパンを掲げ、隆平さんが音頭をとった。


「みんな飲み物はいった?じゃあ、今日は貸切なんで思いっきりクリスマスを楽しみましょう!
メリークリスマス!」


「メリークリスマス!」


カチンというグラスの音が響いて、パーティは始まった。
僕がシャンパンを飲もうとしたところで、それを横から入って止める手が現れた。


「あーだめだめ。淳はシャンメリーだろ?」


「いいじゃん、少しくらい。」


「だめったらだめなの。」


そういって濠さんは僕のグラスをシャンメリーの取り替えた。


「何コレ、甘!」


思いのほかシャンメリーは甘かった。


「当たり前だろ。おこちゃま用なんだから。甘党にはちょうどいいじゃねーか。」


「・・・っていうかさ。濠さんもう酔ってる?」


「んな訳ねーだろ。こんな一口飲んだ位で酔うか、アホ。」


「だっていつも以上に態度悪いし。」


確かになんかいつもと違う気がするんだけど・・・。
そう思っていると隣から隆平さんが耳打ちしてきた。


「悪い淳。今日は濠の相手、頼むわ。」


「へ?」


「あいつめちゃくちゃ絡むから。宜しく。」


そう言って隆平さんはテーブルを離れていった。


「ちょっちょっ待ってよ!隆平さん!」


隆平さんを呼び止めようと伸ばした腕を隣にいる大男はいとも簡単に抑えた。


「何内緒話してんだ。さ、今日は店もないし。飲むぞー。淳、お前付き合え。」


オイオイちょっと待ってくれよ。
何で僕はこんなパーティの時にこんな酔っ払いの相手しなくちゃいけないんだ?
っていうか一杯しか飲んでないのに何でこんなに酔ってるんだ?
少々疑問を抱えながらも僕は濠さんのお酒のお供になったのだった。




「最近、どう、なんだ?」


お酒が進んできた所で濠さんは切り出してきた。
濠さんの聞きたいことは、言われなくても分かってる。


僕の、気持ち。
隆平さんを想う、気持ち。


僕の気持ちを知っているのは本人以外では濠さんだけだったから、あれから何回か話を聞いてもらったことがある。


隆平さんに海に連れて行ってもらった一週間後、僕は一人で「sol」を訪れた。
隆平さんがお休みだったので店には濠さんしかいないからだ。
どうしても、話を聞いて欲しかった。


今まで想いに苦しんできたことを。
そしてちゃんと気持ちを伝えたこと。
それでもまだ好きな気持ちを捨てられないこと。


一通り話を聞き終えると濠さんは


「がんばったな。」


っといって僕の頭をポンポンとたたいた。
とても優しい感じがした。
それからというもの、濠さんは僕の相談を聞いてくれる。
ぶっきらぼうで口は悪いけれど、ちゃんと僕の気持ちを理解してくれるし。
自分が思ったことは率直に伝えてくる。
キツいと言ってしまえばそれまでだけど、こういう濠さんの性格が僕は好きだ。
なんか最近では隆平さんより仲がいいんじゃないかって姉さんに言われるくらいだった。


「最近、思うことがあるんだ。」


周りの人たちはだいぶ出来上がって来ていて僕らの会話は聞こえない。
それをいいことに僕は自分の中で生まれつつある気持ちの変化を口にし始めた。


「好きな気持ちはね。まだある気がするんだ。今でもドキドキするし。けどやっぱりその想いはだんだんと熱を失っていくんだよ。冷めるわけではなく、温かいまま思い出になっていくっていうか。」


「そりゃあそうだ。人間失恋を忘れられなきゃ、世の中うまくまわんないだろ。」


「だからね、前みたいに四六時中そのことしか考えられないっていうぐらい熱いわけじゃないんだ。かと思えばたまにふと思い出したかのようにドキドキするんだ。こういう時、自分は恋をしている実感があるんだよね。やっぱり好きだなぁって思う。」


そうなんだ。
今でもドキドキするんだ。
視界に入るたび、体が触れるたびに。


「けどね。それとは別な、気持ち。最近感じるんだ。」


「おっ。とうとう俺に惚れたか?」


「・・・バカ。終わったらちゃんと濠さんにも話しに来るから。」


「なんだよ、オイ。気になるじゃねぇか。」


「自分でも、怖いんだ。決心が鈍りそうで。」


「オマエは強いよ。弱そうで、ちゃんと自分を持ってる。それはこの俺が証明してやっから。思いっきり何でもやったらいい。泣きたくなったらいつでも逃げ場くらいは用意しとくよ。」


「ありがと。」


「おうよ。」


「なんで彼女できないのかなぁ。こんなに優しいのに。」


「いい加減殴るぞテメェ。」




そう。
僕の中では新しい気持ちが芽生え始めている。




「じゃあ、帰りましょう。」


「オイ、濠。俺たち帰るかなな。明日の朝片付けにくるからそのままにしてていいからな。」


「ふぁーい。」


パーティは夜通し盛り上がりそうな勢いだったけど、僕ら3人は姉さんの体のこともあるので適当なところで引き上げることにした。
濠さんはもうすっかり酔ってしまって、もう夢の中だ。


外に出ると、雪はすっかりやんでいた。
冬独特の澄んだ空気を思いっきり吸う。


「姉さん。僕、これから行きたいところがあるんだ。」


「どうしたの?こんな時間に。」


「クリスマス、夫婦水入らずで過ごしたいでしょ。来年からは子供もいるんだから、二人きりで過ごせなくなるし。」


「何言ってんだ。俺たちに気を使うことないんだぞ。」


隆平さんが複雑な表情で僕を見る。


違うんだよ。


遠慮とかじゃなく。


会いたい人がいるんだ。


「僕ね、会いに行きたい人がいるんだ。」


「もしかしてこの前言ってた彼女?」


「うん。実はそうなんだ。」


「そっか。気をつけて行くのよ。送っていこうか?」


「ううん。いい。そんなに遠くないから。」


「そう・・・。じゃあ隆平、帰りましょうか。」


「ああ。」


二人は車に乗り込んだ。
隆平さんには、これが僕の虚勢ではないことが伝わっただろうか。
遠慮とかじゃなくて、自分の意志で動いたということに。
最後に、車を発進させる前に隆平さんが言った。


「淳。ありがとう。」


「うん。」


ありがとう。隆平さん。姉さん。
これは僕から二人への、クリスマスプレゼントかもしれないな。
走り去る車を眺めて僕はそんなことを思った。









雪が降ったあとの空気は冷たいけれど
僕の気持ちは前に進んでいた。


会いたい人。


もしかしたら、あの人には新しい恋人でもできて、楽しくクリスマスを送っているかもしれない。
約束をしたわけじゃないし。
けれど僕は会いたい気持ちでいっぱいだった。
これはまだ恋なんて名前のつけられる気持ちじゃない。
ただ、だんだんとあの人がどうしているのか気になってしょうがなかった。
僕らの出会いは間違っていたかもしれないけど
なんだかもう一度出会いたいような気がするんだ。
だから、会いに行こう。
もし彼が違う幸せを見つけていたら、今までのことにお礼を言うだけでもいい。
僕は買っておいたクリスマスプレゼントの袋をぎゅっと握りしめた。
大人の男の人に何をあげればいいかなんてわからなかったけど
これでも必死で選んだんだ。
煙草が好きな人だから、有名なブランドのライター。
安直な発想かもしれないけどこれぐらいしか思いつかなかった。
純銀でできたそのライターには、彼の名前が刻印されている。
彼は、喜んでくれるだろうか?


僕は足を早めた。
何ヶ月か前はよく通っていたマンションを目指して。




通いなれたマンション。
僕は長いこと使うことなかった合鍵を使ってマンションの中に入り、部屋へと向かった。
エレベーターが7階に止まり、扉が開くと、そこには彼の部屋のドアが待ち受けていた。
今更ながら緊張する。
イヤな顔をされないだろうか。
僕は緊張に震えそうにになる指先で、インターフォンを鳴らした。

ピンポーン

インターフォンの無機質な音が響くが、返答はなかった。
もしかしたら、出かけているのかもしれない。
ふとそんな考えが頭をよぎった。
出かけてるってことは、きっともういい人がいるのかもしれないな。
僕は鞄からメモ貼を出すと、彼に宛てたメッセージを書いた。

久しぶりです。
以前お世話になったお礼と、クリスマスプレゼント持ってきました。
いないみたいなので、置いていきます。
よいクリスマスを。


書き終えるとプレゼントの入った紙袋にメッセージを入れ、その袋をドアノブにかけた。
そして、少し躊躇したけれど今日ここに侵入するために使った合鍵も袋に入れた。
不思議と痛みはなかった。
少し、寂しかったけど。

コトンという鍵の落ちる音が、少し耳に響いた。

同時に

エレベーターの開く音が、背後で、した。

このマンションは高級マンション。
1フロアに1部屋しかないんだ。
だから
このフロアに用があるのなんて、9割くらいの確率でこの部屋の住人しかいなくて。

僕は石膏のように固まった背中を、後ろに向けることができなかった。
エレベーターが開いても、人が出てくる気配はない。
おかしいな、と思って振り向こうとしたその時

何かが僕を思いっきり抱きしめた。






言葉はいらなかった。
ここに今僕が来たことが、その答えのような気がするから。


お互いに愛する人への気持ちを押し殺して、偽りの温もりを求めたあのころ。
その気持ちはいつの間にか歪んでしまった。
僕たちは本当の意味で自分達の気持ちに向き合わなければいけないと。
そう気付いて、離れることを選んだ。

けれどこれは偽りの温もりじゃない。
こんなにぎゅっとお互いを抱き寄せて、言葉も要らないくらいにお互いの体温を感じる。
きっとこれはホンモノの温もり。

長らくお互いの存在を確かめあっていたが、僕のほうから口を開いた。


「ドコ行ってたの?」


「ん。ちょっとコンビニ」


そう言って彼はコンビニの袋を揺らした。


「クリスマスなのに何しけた生活してんの?」


「しけた生活なんかじゃないよ。こうして逢いに来てくれる人がいる。」


向き合って、彼は僕の方をぎゅっと掴んだ。


「俺に、逢いに来たんだろう?」


「・・・そうだよ。もう一度、あなたに出会いたいと思った。」


この気持ちに何て名前をつければいいんだろう?


「俺も、逢いたかったよ。・・・ずっと。」

久しぶりだ。
唇が、とても熱い。

軽く、触れ合ってから一度唇を離して。
彼は言った。


「メリークリスマス、だな。」


「うん。メリークリスマス・・・・ナオキさん。」









もう一度、さっきより長い口づけを。
甘い甘い口づけの中で、僕たちの吐息は深い闇の中に溶ける。

クリスマスというのに、辺りはしんと静まり返ったままだ。
昨日今日で降り積もった雪のせいかもしれない。
とにかく。
今の僕には、二つの心臓の音しか聞こえない。







特別なクリスマスプレゼントなんていらないから。







僕にはもう、これだけで充分なんだ。









                        Fin.




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