貴方を嫌いになる方法・1


ぐつぐつと煮えるシチューを睨む。
きっと世界中のシチューを作る人の中で一番険しい顔をしているに違いない。
なぜ僕はこんなにも怖い顔をしているのか。
それはこのシチューが煮える部屋の主が原因である。

主の名は及川隆之(オイカワ・タカユキ)。
遊ぶことしか頭にないいわゆる典型的な大学生である。

そして及川隆之の部屋でシチューを睨む男。
僕は中谷樹(ナカタニ・イツキ)である。

僕は隆之の家政婦などでは決してない。
ではなぜこんな風に主の帰りを待ちながらシチューを煮込んでいるのか。
そこには少なからずとも愛情が入っている。
合鍵を使って家の中に入り、夕飯を作って恋人の帰りを待つ。
これは至極当然のことなのである。
どこにでもある光景だ。
ただそれが僕も男、相手も男、という少し変わった点はあるが。

僕と隆之はもともと友達だった。
それが隆之の家で料理を作ったらヤツは味をしめてしまい、それが習慣となった。
そしていつしか恋人にまでなってしまった。一体どういう展開なのだ。
食欲を満たしたわが友人は次の欲求として睡眠でなく性欲が湧いてしまい、気が付いたらそういうことになっていた。
まんまとヤツのペースに乗せられたわけだ。
しかし気が付くと僕の方からも少なからず情が湧いてきて今ではしっかり愛し合っている・・・多分。

竹串で具のジャガイモを刺してみるとすんなりと通った。
そしてホクホクと湯気が出る。
ちょうど食べごろだった。しかし食べさせる相手は今だ外出中である。
毎週水曜日はたいていお互いに時間があるので僕が隆之の家に来ることになっていた。
隆之のために料理を作る自分は結構幸せだったりする。

とりあえず火をとめて帰りを待つことにした。
一人で人を待つことほど時間を長く感じることはないのではないか。
僕はおもしろくもないテレビを見ながら時間が過ぎるのをまった。
隆之は僕が今日きているとは思わないんだろうか。
会えないなら会えないで連絡してくれればいいのに・・・。

ひらすら待ちつづけて数時間。時計の短いほうの針はもうすぐ11時をさすころだった。

突然、ドアが開く音がした。
帰ってきた、と思いリビングを出て玄関へと向かう。


「おかえり!」


しかし声をかけた相手は隆之ではなく・・・女だった。
イヤな予感はしていたのだ。
女のカンなぞ僕は持ち合わせてはいないが、そういうものがあるとしたらきっとこういう予感なのだと思う。
またか・・・と思いとりあえず僕は女の品定めをする。


・・・


この際ハッキリと言おう。
かなりバカそうな女である。
スタイルだけはカクベツに良いが、顔は普通。最も濃い化粧で隠されているから実のところは不明である。
服装も白いパンツに胸の大きく開いたインナー、その上にGジャン。髪の毛は金に近い色でメッシュが入っていた。
相当遊んでそうな感じだ。


女は一瞬驚いたようだったが、すぐにそのバカそうな口を開いた。


「あれぇ〜、タカユキ、ダチきてんじゃん。」


遅れて入ってきた隆之は一瞬焦った表情で僕を見たがすぐにいつものフザケたツラに戻り、


「お、樹。来てたのか。」


などと何食わぬセリフを吐く。
僕もその場の雰囲気に合わせるように


「ごめん。今日女連れてくるなら言っといてくれよなー。フツーに遊びに来ちゃったじゃんよ。すぐ帰るから。」


そういって僕は部屋を逃げるようにして飛び出した。
ドアを閉めるのと同じくらいに隆之のノンキな声が聞こえてくる。


「ごめんなー。またこいよ。」


まったく。史上最強に腹が立つ男だ。






僕達の関係はこういう感じだった。
隆之(ちなみにバイセクシャルらしい)の浮気癖は天才的とも言うべきだった。
身長186cmの体格の上に顔は相当整っている。
そして人を丸め込んで自分のペースに持っていくうまさといったら・・・僕も経験済みだが。
そんなわけで言い寄ってくる人間はあとからあとからやってくる。
そして来るもの拒まず去るもの追わずをモットーに、次から次へとつまみ食いをしているような輩である。
僕とこういう関係になってから半年あまり経つが、すでに5〜6人は家に連れ込んでいる。
その他に知らないのも含めたら10人はいっているだろう。

しかしそんなに浮気されても別れることはできなかった。
去るもの追わずの隆之だったが、僕のことだけは追ってくるのだ。
そのおかげもあり、今のところ僕たちは続いている。
それに最終的にはやっぱり僕は隆之が好きなのだ。

でもやっぱり今日のことは少し怒ってみよう。
そう思いながら家路についた。
ただ少し気がかりだったのは、せっかく作ったシチューを自分自身が食べていないということだった。






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