やっぱり隆之のこと怒ってみよう。
そう心に決めていた僕だったが、怒ることはできなかった。
なぜなら隆之が何事もなかったのように謝ってこないからだった。
僕としては「ゴメン!許して!」といつものように頭を下げてくるかと思い身構えていたのだが・・・。
次の日、お昼に学食でしょうが焼き定食を食べていた時だった。
隣の席に隆之が座ってきた。
「おはようさん。」
急に声をかけられて僕は飲んでいた味噌汁を噴出しそうになった。
さらに昨日の今日で隆之に声をかけられしばし狼狽した。
「お、おはよ。」
「昨日のシチューうまかったぞ。」
「あ、そ。ありがと。あの子も食べたの?」
「ああ、うまいって言ってた。」
「そうなんだ。やっぱりおいしいっていってもらえるとうれしいな。」
ここまで言って気付く。
『うれしいな。』じゃないだろ!怒れよ自分!
あまりにも普通に会話してしまって自分でも情けなくなった。
でも今更蒸し返すのもあれだしな。
よし、次あったら絶対にキレてやる!!
そう心に決めたとても情けない僕でした。
なんだかんだ言って僕は隆之のこといつの間にかすごく好きになってしまったんだと思う。
最初に迫ってきたのはあっちだけど、付き合っていくにつれてこの想いはどんどん大きくなっていくんだ。
もちろん付き合う前から隆之が遊び人だってことは知っていた。
友達時代一緒に連れていかれた合コンでは決まって知らないうちにいなくなっていたし。当然女の子を連れ立って。
朝まで女の子と一緒にいて眠いからと代返を頼まれるのはむしろ日課ともいうべきだった。
どうしてそんなヤツと付き合うのかといったら自分でもよくわからない。
ただ、どんなに他の人と遊ばれてもふいに見せる優しさとか、力強く抱きしめられたりすると何もかもどうでも良くなってしまうのだ。
ただただ深い安らぎに酔いしれて、きっと隆之に溺れているのだろう。
それに隆之はいろんな女と遊んではいるが、僕の知る限り男の相手は僕だけだった。
初めて抱かれた時、男相手は初めてだと言っていたし。(ホントかどうか定かではないけど・・・)
僕は特別な存在なのかもしれない・・・って少しはうぬぼれてもいいんじゃないかと最近思ってきた。
隆之は自分の食事が済むとすぐに席を立った。
「もう行くの?」
「ああ・・・。ちょっと生協に用があって。」
「そっか。じゃあまたあとで。」
「今日、部屋に来いよ。」
隆之は僕の耳元で囁くように言ってきた。
ふいにこういう風にされるとドキドキしてしまう。
「わかった。何食べたい?」
「生姜焼き」
「僕今食べてるじゃない。やだよ。一日二度生姜焼きなんて。」
「だって樹の見てたら食べたくなった。」
「わーったよ。生姜焼き作ればいいんでしょ。」
「よしよし、樹ちゃんはいいこだねぇ。」
そういって僕の頭をぐしゃぐしゃにする。
「ばかぁ、からかうな!」
「んじゃね。」
やっぱりいっつも隆之のペースに惑わされてしまうんだよなぁ。
こうして、今日二度目に食することとなるであろう生姜焼きを、しっかり隆之の部屋で作っちゃってる僕がいる。
何が悲しくて一日に二回も同じ物を食わなくちゃいけないんだろう。
少し情けない気分になりながら、それでもちゃんとした生姜焼きを作ってしまう悲しい性。
「おっ、樹ちゃんはやっぱり料理がうまいねぇ。」
なんだかなぁと思いながらも、おいしそうにご飯を平らげている愛しの恋人を見ていると許せてしまうのだ。
僕は隆之がご飯を食べる姿がたまらなく好きだ。
自分がしたことが、こんなにも他人を幸せにできるんだって再確認できるから。
「学食のよりおいしいの作んないとしゃくだからね。」
「おいおい、まだ根に持ってんのかよ。今夜のリクエストに。」
「別にぃ〜。」
少々むくれて見せる。
「じゃあ樹君の夕飯のリクエストにお応えできなかったお返しにベッドの上でのリクエストをお受けしよう。」
「ばっ!何いってんの?そそそそんなもんないっ!」
「照れちゃって。かわいいねぇ。つまりどうにでもして♪ってこと?」
「このエロオヤジ!」
もちろん向かいの食卓に僕の怒りの鉄拳が飛んだのは言うまでもなく。
「・・・ててて。いてぇよ。樹ちゃん。少しはノってくれよな。」
「食事中ですから。」
「だって食事中だって何だって樹ちゃんてば性欲をさそう・・・」
「却下。」
すっかりとしょげてしまった隆之にふいに
あ・・・可愛い。
なんて思ってしまった僕は、またしても好きな気持ちを再認識してしまったわけで幸せな気分で満たされていた。
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