my inmost thoughts
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「わーどうしよ!こっち来る。」


廊下の向こうからスラリとした長身の男がやってくる。
さすが一目置かれる存在だけあってそのオーラは一般の生徒とは違うのだ。
望は相当離れた位置から真中の存在を認識していた。
さすが恋の力である。

裕之と望は教室移動の最中だった。
裕之は望から特有の緊張感が伝わってくるのを感じていた。
まるで初恋を知った時の少女のように、どうやって近づこうかということを考えている。
しかしそれを考えるかいもなく、真中のほうからこちらに近づいてきた。


「芹沢君?」


今日はめずらしく一人で行動している。


「真中センパイ!」


「この前はすまなかったね。もう大丈夫?」


「はい。おかげさまで。この間はどうもありがとうございました。」


望の顔が少し赤らんだ。
そんな望を可愛いと思いながらも、裕之の心は嫉妬で満ち溢れていた。


こんな完璧な人間に叶うはずがない。
それくらいこの真中という男はカッコイイ男だった。
望と真中が一緒にいるところなんて見たくない。
そう思った裕之はこの場から立ち去ろうとした。


「望、俺先行ってるな。」


しかし2人に背を向けて歩き始めようとした時に制服の裾が引っ張られた。
裕之が後ろに振り返ると望が不安そうな目をして見ている。
そんな望の姿を見て無性にイラついた裕之は、少し強い口調で


「俺部活の先輩に呼ばれてるんだわ。急ぐからさ。」


と言ってしまった。
望は裕之にそんなことを言われることを予想もしていなかったのですごくびっくりしたような顔をして震えた。
そういう顔をさせていることに気付いてはいながらも、振り切るようにして裕之は歩き始めた。
背中に2人の気配を感じる。
こんな苦しい想いは、慣れているようで全然慣れない。
また、恋をする望を見るのはもう・・・。






「ヒロ君何で怒ってんの?」


部屋に戻ってきた望は真っ先に裕之に聞いてきた。


「別に怒ってないよ。」


(本当は嫉妬でどうにかなってしまいそうなくせに。)


「別にいーけどさぁ。僕が心細いの平気で方って行くんだもん。真中さんの前でヒロ君に文句言うわけにいかないから言わなかったけど。僕結構ムカっときた。あの態度。 」


「悪かった・・・ごめんな。」


自分が少し感情的になってしまったことに反省して裕之は素直に謝った。
いつも理不尽な文句を言われるのは裕之で。
それを理不尽と分かっていながらも最後には許してしまう。
裕之は、自分が忍耐強い人間なのではなく、どちらかというと情けない人間の部類に入ると思った。
結局不安定なこの気持ちを隠すようにして普通の友人を装うことしかできなくて。


「真中さんとちゃんと話せた?」


そんな、聞きたくもないようなことを聞いてしまう。


「うん。もう真中センパイ卒業じゃない?だからあんまり会えないけど、今度機会があったら遊ぼうって言ってくれた。携帯のアドレスも教えてもらったし。」


「へぇ・・・。よかったじゃんか。」


色のない声が出てしまう。
結構分かり安い反応をしているのだけれど、望は自分のことで一杯でそれに気付かない。


「ねぇ、どう思う?うまく行きそうかな?」


「さぁね。俺は望たちの会話聞いてないからわかんないけど。遊ぼうって言われたってことは何かしら好意はもっているんじゃない?」


そうなのだ。
その点において裕之は焦燥感を感じていた。
望の一方的な片思いならまだいい。
しかし俺が惚れているというのを除いても、望という人物は十分魅力的なのだ。
少しでもそっちの方の考え方ができる人間なら間違いなく魅了されるであろう。
そう思うと、先ほどただ一度だけ目が合った真中の瞳に違う色情を感じてしまう。
ただの思い過ごしなのだろうけど、真中が少しは望に好意を寄せていることは確かで・・・。


「コレね。僕の直観なんだけどさ。オトコもいける口だと思うんだよね。」


「どういう直感なんだ、それ。」


「僕さ、最近ちょっとわかるんだよね。そういう風な目で見られるのがどういうことなのか。少なくとも可能性はゼロではないよ。」


「すげぇレーダーだな。それ。確かなワケ?」


「たぶんねぇ。今までつきあった人とかは結構最初から当たってた。クラスのヤツとかでもさ、いるよ?結構。」


裕之にとっては以外だった。
普段裕之は望に変な虫がつかないようにいつも警戒しているのだが、確かに変な目で望のことを見ている輩はいる。
それを望は気付いていないと思っていたのだが、彼なりの警戒心はあることが今わかった。


「その点ヒロ君は安心だよね。襲ってこないし。」


急に胸が高鳴り出した。
今まで心の中でひっそりと秘めていた想いが暴かれた訳ではないのに。


もしかしたら望は確信犯かもしれない。
裕之が絶対に望のことをそういう対象に見ないように、防御線を張っている。
望にとってある意味特別な存在であることに喜びを感じながらも、決してそこから先に進むことは許されない、見えない鎖。


「真中センパイに本気でアタックしちゃおっかなー」


そんな望の言葉を聞きながら、裕之はまた自分の気持ちに蓋をした。




俺の中にある深く深く、秘めた想い


それは表面に現れることもなく、俺の体内で腐っていくだけなのか。

裕之はまた恋を始めた望を一瞬見て、深く目を閉じた。






+ Fin. +






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