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ポーカーフェイス《4》

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GAME or LOVE?





こんなに苦い気持ちになるのはいつぶりだろう。
おそらくあれは2年前、急にハルキを失った俺はどこかバランスを欠いていて。
毎晩のようにセフレと寝ていたときがあった。一人で夜を過ごすのが寂しくて、一緒にいてくれるためなら誰でも良かった。
ハルキに愛されることのない身体などどうでもいいと思ったし、実際結構無理をしたように思う。
そんな時情事の後に相手の男がシャワーを浴びている音を、苦しい思いで聞いていたのだ。
こんなところで自分は何をやっている?
これじゃあまるで棄てられたみたいじゃないか。
そう気付いてからは無茶はしなくなったけれど、いろんな男達との逢瀬を心も揺り動かさずに過ごしてきた。
ただ、したいだけだ。そこに気持ちは存在しない。



そんな罪悪感にも似た気持ちが再び俺を襲う。
深くため息をついてシーツを握りしめた。

あの小会議室で愛された身体はそのまま夜の約束へと塗り替えられた。
さすがに最後まではすることができなかったので、あの時はただ自分が高められ、解放されただけだった。
その後いけないとは思いながらも今夜会う約束をしてしまい、以前よくきていたホテルで再び会ってしまった。
2年ぶりに彼を受け入れて、俺は狂いそうになるくらいに何回もイった。

そして今、ハルキはシャワールームに。
俺はベッドにへばりついている。

シャワーの音がやみ、しばらくするとバスローブに身を包んだハルキはやってきた。
乾いていない髪は無駄にセクシーで、熱が蘇りそうになる。
ハルキは自分の鞄から紙を取り出すと、自分の携帯番号とアドレスを書いて俺によこした。
この紙を受け取っていいものかと一瞬迷った。
再びであった俺たちは、これからも以前のように身体だけの関係を続けていくのだろうか。
ハルキにとって俺はただの遊び相手で、都合が悪くなったらまた棄てられてしまう。




ああそうか。
やっぱり俺はハルキに棄てられたんだ。
少なくとも俺自身はそう感じている。




じゃあ、そんなみじめな思いをまたするのか?
今までみたいに心を凍らせて、セフレと戯れるのとはワケが違う。
ゲームだと割り切っていても、俺はハルキにそれ以上の感情を持ってしまっているのだから。
そんな一方的な思いをするのはもうごめんだ。




「いらない。もうオマエとは寝ない。」


自分でもびっくりするほどの冷えた声が出た。


「何で?俺たち相性いいじゃん。柊哉さんとまた会えて、うれしかったんだけどな。それとも今決まった相手でもいるの?」


「いや・・・だけど俺はいやだ。」


「何がいやなの?」


何て云えばいい?
俺は本気だから遊びでなんかつきあえないなんて、それこそ言えるはずがない。
どこまでもプライドの高い自分を呪った。


「じゃあ柊哉さんの携帯とアドレス教えてよ。携帯はともかく、アドレスは代わってるんでしょ?」


「・・変わってない。」


俺に残った1%の素直な気持ちが語らせた。
もしかしたらまたハルキから連絡があるかもしれないと思うと、電話もアドレスも住む所も変えることができなかったんだ。
よくよく考えたらアホな男だ。来るはずのない連絡を待っているなんて。
現に今のこの会話で、ハルキはこっちに戻ってきていても俺に連絡をとろうともしなかったことが明らかになった。
しょせんハルキにとっての俺はその程度の存在で。
いたたまれなくなった俺は脱ぎ散らかしてた服を慌てて着はじめた。


「ちょっ・・・柊哉さん!待ってよ。突然何?」


「俺オマエとまたセフレになる気、ないから。仕事は仕事で終わるまではちゃんとやるつもりだけど。・・・今日誘いに乗ったのだってたまたま溜まってただけだから。」


かけてあったコートを着て、部屋の戸口へと進む。もうハルキの顔を見れなかった。


「何でだよ?ちょっと!」


ハルキの制止の声も振り切って飛び出す。
夜の闇の中、無我夢中でハルキから離れることばかりを考えていた。













どう帰ったかもわからないけれど、とりあえず気がついたら自分の家にいた。
帰って来た瞬間力が抜けて玄関の扉を背に座り込んだ。
まさかまたハルキと会って、その日のうちに体を重ねるとは思わなかった。
アイツのことになるとどうにも自分の体が言うことを聞かない。
それでも今日ホテルから逃げ出して来れた自分はエライと思った。このまま流されるわけにはいかないのだから。

傷つくのが怖かった。

もう誰も。俺の心の中に入ってこないでくれ。

全力疾走で走ってきてぐらぐらする頭を抱えながら、あまりの疲労に冬だということも忘れてそのまま蹲った。
二度棄てられるくらいなら、自分で棄てる。
その選択は間違っていないはずなのに。

ドンドンドン!
扉をたたく音がした。インターフォンを鳴らせばいいのになぜドアを叩くんだ。
背中から伝わる振動に身を震わせながら、俺を呼ぶ声を聞いた。


「柊哉さん!」


「やめろよ。近所迷惑だろう。」


「やっぱりいたんだ・・・。住所も変わってないんじゃないかと思って、来たよ。どうしても伝えたいことがあるんだ。」


ホっとしたような声でハルキが言う。


「俺はハルキと話すことなんか、もう何もない。」


「じゃあこのまま近所迷惑でもここで云うから。」


一体これ以上何を言うのだ。ただのセフレを追い掛け回して何になる?


「恥ずかしいからやめろよ。」


「だったら開けて。ちゃんと顔を見て言いたい。」


ドンドンとさらにドアを激しく叩かれる。
このままじゃ本当に苦情ものだと決心した俺は、ドアを開けた。
と、同時に肩を掴まれる。
目がまっすぐに俺を射る。


「好きだ。」


ドアは開けっ放しで、そんな大きな声で言ったら結局近所迷惑じゃないか。そんなどうでもいいことを考えながらハルキの独白を聞く。


「柊哉さんは遊びだったかもしれない。初めて会ったときからそういう風に付き合ってきたから。でも俺は違う。
会社帰りに嬉しそうに俺のライブを聞いてくれる柊哉さんの姿を、どんな遠くからでもずっと見てた。淋しそうな顔をした、でもキレイな貴方に夢中だった。それから貴方があの店によくいくってことを調べて、クリスマスの日にもしかしたら・・・なんて思って待ってた。まさか出会えるなんて思わなかったし、柊哉さんを抱けた時は天にも上るような気持ちだった。
でも俺みたいな子供は柊哉さんに相手にされてないみたいで、あなたはいつもポーカーフェースで全然つれないし。多分遊ばれてるんじゃないかと思ってずっと不安だったんだ。
それくらい本当に好きで好きで好きで!どうしたらこの気持ちを理解してもらえる?」


「じゃあ、何で俺の前から突然いなくなった?どうして俺を置いていった?どうしてまた前みたいに抱こうとする?・・・俺がどんな気持ちでいたかも知りもしないで!」


今度は俺がハルキのシャツを掴んだ。握りしめた手が熱い・・・声が、震えてる。


「俺は柊哉さんに見合うだけの男になりたかった。体だけの関係じゃなくて、心も欲しくて。でもそれを言うには自分に自信がなさ過ぎたんだ。だから自分の好きな歌で、食っていけるほどの自信がついたらまた柊哉さんにちゃんと言おうと思ってた。
俺が東京に行くって言った時、あなたは顔色一つ変えずに別れたよね。・・・やっぱり俺は遊びだったんだと思って結構ショックだったな。
それでもがんばろうと思ったんだよ。けど俺がストリートで楽しく歌ってこれたのは、あなたが見ていてくれたからだったってことにようやく気付いて。せっかく東京に出ても夢をつかめなかった・・・いや、夢を見失ってた。自分が何をしたいのかわからなくて。
結構遊んでばっかりいたから、ついに親父の逆鱗に触れて、3ヶ月前、戻ってきた。
この街の匂いをかいだら、貴方に会いたくて仕方なかったけど、こんなみっともない姿を見せたくなくて・・・・。ごめん、どれも俺のエゴだな。全部俺が頼りないのがいけない。」


ハルキの言葉が胸に染みる。
みっともないハルキに、みっともない俺。
結局どっちもプライドの高いカッコつけだったのか。
自尊心を守ろうとして、自分の一番大切なものを失ったなんてバカみたいだ。


「体だけの関係なんてイヤだ・・・。俺は、ハルキをちゃんと愛せない限り、一緒になんていたくないからな。」


「やっと、素直になった。」


ハルキがぎゅっと俺を抱きしめる。
この体温も、この匂いも全部好きだ。


「一緒にいよう。これからは。俺、柊哉さんのことすごい愛してるから・・・あなたも俺のこといっぱい愛して。」


そんなすごい愛の言葉を紡いだ唇が、俺の唇におおいかぶさる。
上唇と下唇をそれぞれ甘くかみながら、やがて俺の中へと入ってきた。






傷つくのが怖くて感情を押し殺していた自分は、もういない。
ちゃんと笑って、ちゃんと泣いて、ちゃんと怒って
ハルキと一緒に生きていきたい。
あたたかな腕の中、ただそれだけを思っていた。











あれからまた朝まで愛し合った俺たちは、ベッドの中でいろんな話をした。
これで過去を少しでも埋められる。未来はこれから作っていけばいい。


「ところでさ、何でハルキって苗字で名乗ってたの?俺結構ショックだったんだけど。」


気になっていたことをようやく聞いた。


「俺、下の名前嫌いでさ。しのぶってなんかオンナっぽいし。カッコつけたかったんだ。」


「なんだよ、それだけのこと?俺結構ショックだったんだぜ、子供みたいだけど。」


あまりにあっけない理由に呆然とした。やっぱり、カッコつけたかっただけなんだ。


「じゃあ、これからは柊哉さんの好きなように呼んでいいよ。ちなみに俺のこと下の名前で呼ぶのはこの世の中では両親と兄貴だけだ。どうする?」


「それは俺に特別を許してくれるってこと?」


「そゆこと。」

なんだかくすぐったい。あれだけ下の名前で呼ぶことに意味を見出していたのに、いざとなるとこそばゆい。


「大好きだよ、忍。」

言ってしまった。なんかすごく恥ずかしい。


「うわー、なんかすごいうれしいかも。」


俺は恥ずかしくて布団を頭にかぶった。


「柊哉さん、俺も大好きだよ。もう他の誰にも触らせたくない。」


その言葉を聞いた俺は、今すぐ他のセフレと切らなければならないことを思い出した。
あとで相原にでも電話するか。
俺は大親友の顔を思い出しながら、忍の体に抱きついた。

もう、他には何もいらないと、そう思った。




-fin.-






あとがき
>リーマン×リーマンで、年下攻めで、年は24歳と28歳くらいがいいです。出会って割とすぐに関係するのだけれど、ある理由で2年くらい音信不通になっちゃうんです。そして再会して・・・。ハッピーエンドがいいんですけど、間に年上が悶々となやむのがいいです。

という素敵なリクエストを頂きました。時間はかかってしまいましたが、なんとか書き終えてほっとしております。
寂しがりやなくせに、それを表に出せないのが、私の美人年上強気受けの萌えポイントでして、今回はそんな彼を書けて嬉しかったです。リクエストどうも有難うございました。






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