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いままで おれたちは

ながいながい まわりみちを してきたね







「なぁ啓太、これ今日送られてきたんだけど見る?」

俺はベッドに寝そべりながら、スナップ写真を見ていた。
啓太はパソコンに向かってなにやら仕事をしていた。

「ああ、もうちょっとでコレ終わるから。」

啓太は忙しい。
こうして家でもパソコンに向かうことがよくある。
なるべく家に仕事は持ち込まないようにしてくれてはいるけれど。
俺はしばらく啓太の後姿を見ていたが、視線をスナップ写真に戻した。
その写真には、幸せそうな家族の姿。
夫と、妻と、小さい子供。
どこか心の温まる写真の数々だった。

「よし・・・と、コレを保存して。・・・終わったよ。どれ?」

仕事に一段落ついたらしい啓太は俺の隣にやってきた。

「ホラ、これ。かなり親バカじゃない?」

「まぁな。でもかわいくて仕方がないんじゃないか?実際匠くんかなり可愛いし。」

「そんなもんかねー。」




俺たちが大阪に来てから3年の月日が経っていた。
兄の貢に男の子が生まれた。
1年前に朱音と結婚して出来た子供だ。名前は匠。

3年前のあの日、啓太は僕に家族と話し合う時間をくれた。
諦めて、逃げ出そうとしていた俺に。
あれからは随分話し合った。

今までのこと。
啓太への想い。
そしてこれからどうしていきたいかということについて。

貢が才能の溢れる人物であることはまぎれもない事実だから、両親は俺にそれを強要するような育て方はしたくなかったそうだ。
俺にはプレッシャーをかけるのではなく、自由に育って欲しいと、そう思っていた。
しかし俺はそれを見放されたと思って、諦めてしまった。
今までは諦めて何も言ってこなかったけれど、俺が自分の気持ちを話し始めたことで、だんだんと両親との距離は狭まっていった。
母親は最初はやはり啓太とのことは抵抗があったみたいだったけど、話していくうちに理解しようとしてくれた。
俺の将来のことについては、やりたいと思ったことをやりなさいと言われた。
これは決して見放されたわけではなくて、いろいろと話し合って決めた結果だった。
何の当てもないのに大阪に行くことは随分反対された。
けれど俺は今の仕事に限界を感じていたし、なによりも啓太と一緒にいたかったから最後まで我を通してしまった。
初めて自分の生き方を決めたような気がした。

大阪では新しい生活が始まった。
啓太は新会社設立に向けて奔走していたし、俺はマイペースに仕事を探していた。
人生の再出発をはかるには、28という年齢はギリギリだったかもしれない。
そんな中、やっぱり俺は人に接する仕事がやりたいと思うようになった。
今俺はイタリア料理店でウェイターのアルバイトをしている。
啓太はフリーターなんかじゃなくて自分の会社で働いてくれたらいいと言っていたけれど、俺はそういう気にはなれなかった。
そこで働き始めてもうすぐ3年。働きが認められて今度の4月からは正社員になれることが決まっていた。
一方の啓太は新しい会社を友達と設立して、最初は苦労が多いみたいだったけれど今ではだんだんと波に乗ってきている。
社員の数もだんだんと増えてきていた。
俺たちは、そんな毎日を送っていた。

貢と朱音が結婚したのはちょうど1年前だった。
あのことがあってから、精神的に弱くなっていた朱音を貢が支えていた。その結果だった。
朱音は今でも俺たちとは口も聞いてくれないけれど、時間とそばにいてくれる存在が彼女の傷を癒し、今では1児の母として幸せな生活を送っている。
貢は随分と親バカで、よく電話をかけてきたりこうして写真を送ってきたりする。

幸せな、日々ってこういうことを言うのだろうか?
俺たちも今幸せなのだろうか?
きっと、その答えはまだ見つけられてないような気がする。
昔のことを思い出して、少しだけため息がでた。

「何、要も子供が欲しいって?」

「そんなこと言ってないけどさ、人間子供ができると変わるなと思って。」

「じゃあ俺たちも子供作ろうぜ。」

そう言って啓太は俺の上にまたがってきた。

「うわっ、バカ!子供なんかできるわけないだろう?」

「そうかなぁ?あれだけ要俺の吸い取ってるのになぁ・・・。」

「ヤラしい言い方すん・・な・・!」

俺の反論は啓太の唇に飲み込まれた。
ずっと前から変わらない、熱いキス。
何度しても飽きないってのは不思議だ。

たったそれだけのことなのに、もう俺は余裕がなくなってしまう。

「要、かわいい。」

「やっ・・・。」

「とても三十路には見えねぇよ。」

「はぁっ・・・三十路言うな!」

「どうして30にもなる男の乳首がこんなに綺麗なんだろう?」

いつの間にかパジャマのボタンをとって入り込んできた啓太の指が、胸をまさぐる。
平らな胸の中にぷっくりと隆起した場所が現れるのはすぐだった。
露わになった胸に、啓太の男性的な唇がむしゃぶりついた。
チロチロと妖しく舌がうごめいているのが見える。




俺は啓太の頭を見下ろして、熱に浮かされながら考えた。

きっと今の自分は幸せだ。

好きな仕事をして、大好きな人とこうして一緒にいることができる。

けれど内心どこかで怯えている自分もいる。
例えば、啓太の仕事がもしもうまく行かなくなったらどうだろうか?
もしかしたら啓太は俺と大阪に来たことを後悔するかもしれない。
それに俺たちはどう頑張っても子供は作れない。
新しい家族を生み出すことができないっていうことを、本当の意味で理解していくのはこれからだろう。
男同士という不安定な関係のなかで、「ずっといっしょにいる」という言葉はえらく脆い。

それを、俺たちは乗り越えて行けるのだろうか?
俺は乗り越えて行きたいと強く思うよ。

啓太と一緒なら。

やっぱり人生のパートナーは、唯一ただひとり、啓太しかいないから。




啓太の愛撫も執拗になってきていた。
俺たちが男である証に、手が伸びる。
もう部屋は甘い吐息で充満してきっていた。
その空気に、深く身体を沈めて。
啓太を、深く受け止めて。


夜は、果てしなく長くなりそうな予感がした。







そして おれたちの これからも

ながい みちのりで あってほしいと


いまは ただ ねがうだけだ


                                     fin.






「唯一」、ようやく完結にこぎつけました。
長かったです。当初は20話くらいで終わるはずだったのですが、長くなってしまいました。
今こうして読み返してみると拙い作品だなぁ・・・、と恥ずかしいですが(笑)
ラストもただ幸せなだけで終わらない、というのがまたアヲイらしいなと思ったりして。
実際私自身も幸せという概念についてはまだまだ分からないことが多すぎると思っています。
最後の方は結構重いテーマになってしまい、正直ちょっと疲れました。
まだまだこういうテーマを扱うには技量が足りないなぁ、と痛感。
もしかしたらいずれ番外や続編も書くかもしれませんが、しばらくは終わらせてみようかと思います。
更新するたびにメールを下さった方々には、とても励まされました。感謝です。
長い間おつきあいくださってありがとうございました。

2004.1.16 アヲイ



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