「おい、浩樹。ちゃんと話聞いてんのか?」
少しだけ遠い世界に行ってしまった思考が、自分を呼ぶ声で呼び覚まされる。
「ちょっとどうしたのよ。ボンヤリしちゃってさ。」
そうだった。
今日自分は部活の帰りに友達の和人と晶子と共に、ファーストフードでご飯を食べていた所だった。
和人は小さい時からの幼馴染みで一緒にバスケ部に入っている。
晶子はバスケ部のマネージャーでもあり、和人と付き合っている。
「何かあったら言えよ。・・・な。」
伺うような視線で和人は俺の方を見た。
「・・・ああ。」
「帰ってきてるんだろ?優樹兄ちゃん。おふくろから聞いた。」
「まぁな。」
「だから浩樹さっきからぼんやりしてるんだ。」
そうなのだ。
俺は最近やっぱり優樹のことを考えてしまう。
近くにいるのに、触れることすらできない。
欲しくて欲しくてたまらないのに。
母親の厳しい目が俺と優樹を見張ってる。
そしてそれ以前に優樹は俺と目をあわそうとしなかった。
たまにふとした瞬間に目が合う事はあるが、すぐにそらされてしまう。
もう俺のことなんか何とも思ってないのかと思うと悔しくてたまらなかった。
一番近くにいる友人である和人と晶子は、俺と優樹の関係を知っている。
優樹と別れて、俺は自分の気持ちを持て余していた。
そのせいで一時随分荒れた生活を送っていた。
もともともてるせいか、部活もそこそこに手当たり次第女と遊びまくった。
小さいころから俺たち兄弟と仲良くしていた
古川和人
は俺の異変にいち早く気付いた。
そしてその原因は優樹に関係することであると感づき、俺の支えになってくれた。
本当に、和人のおかげで俺はバスケに戻ることができたのだと思う。
おせっかいな所もあるけれど、俺の一番のよき理解者なのだ。
一方和人の彼女である岸本晶子も、和人といっしょになって俺の相談に乗ってくれる。
結構言ってる事はきついけど、頼りになる存在だ。
「お兄さんが戻ってきて、どうなの?」
「いや、別に。普通にしてるよ。」
「そっか・・・。浩樹が落ち着いてからさ、俺たちあえて優樹兄ちゃんの話題出さなかったけど・・・今のオマエの気持ち的にはどうなんだよ?」
今の気持ち。
離れたら、忘れられるなんて思ったのは最初のうちだけで。
俺の想いは色あせることなんかなかった。
それに・・・戻ってきたらなおさらだ。
あんなに色っぽくなってるなんて拷問だ。
昨日風呂上りの優樹を見た時はどうしようかと思った。
「そんなこと・・・聞くなよ。」
「そっか・・・。つらいな。」
「ちょっとあんたたち辛気臭いわよ。ぐじぐじ言ってないではっきり言っちゃえばいいのに。」
「でもさぁ・・。目も合わせてくれないんだぜ?もう何とも思ってないか、嫌いになったとしか考えられない。」
「そんな弱気じゃ手に入るもんも手に入らないわよ。ただでさえ障害だらけなんだから。」
「おまえなぁ・・・。そんな簡単に言うなよな。」
和人はきっぱりとした晶子のセリフにあ然とした。
「まぁさ、また何かあったら俺たちを頼れよな。話くらいなら聞いてやるからさ。」
そう言って和人は俺の肩を叩いた。
はっきり言って、今の状況には打ちのめされている。
優樹が戻ってくることが、すごく楽しみだったから。
近くにいるのに何もできないなんてはっきり言って生殺しだ。
ここ何日か毎晩毎晩階下に感じる優樹の存在に胸を高鳴らせ、自分の欲望で手を濡らす日々にはもううんざりだった。
今までもそうしてきたけれど、今はすぐそばに優樹がいる・・・と想うと。
もう自分の理性が持つかかなり心配なのである。
年が年だけに、コントロールが利かない。俺は若いんだ。
夜になると、
(どうすりゃいいんだ?)
とその部分を凝視してため息をつくのだった。
だけど俺は決して優樹をそういう対象としてだけ見ているわけじゃない。
本当に、好きだから。
かたく閉ざしてしまった心。そこには俺だけではなく、誰も入れていないような気がしてならない。
穏やかに家族と話す優樹の顔は、決して心の底から笑っているわけではないと、俺は気付いてしまったから。
そうさせたのは、俺のせい?
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