一ヶ月
side Yuki 06




「駄目よ。そんな話聞けるわけないじゃない!一体何考えてるの?」


叔母の芳美さんは僕の話を聞くなり声を荒げた。
普段はにぎやかな人だが、僕の話にはかなり驚いたらしい。
話を切り出してからはずっと眉間に皺を寄せていた。


「お願いします。そうしなければいけないんです。こんなお願い、とんでもないことだって分かってます。
でもこんなこと頼めるのは芳美さんしかいないから・・・。」


僕は必死で懇願した。
どうしても、頼めるのは彼女しかいなかった。


「じゃあせめてあなたがそんな事をしようとする、理由を聞かせてちょうだい。
何のためにそうするのか、それなりの理由があるんでしょう?」


「それは・・・。」


そんなこと言えるわけなかった。いくら理解があるとはいえ身内だ。


「言えません。」


「帰りなさい。」


芳美さんは厳しく言い放った。


「私はね、あなたが何かに苦しんでいるんだろうってことはわかるわ。
というよりきっと前から何かを背負ってるように感じてた。
だから私だってあなたの力になってあげたいって、そう思ってる。
でもあなたがしようとしていることは、決して許されるようなことじゃない。
それに、そうしたからと言ってあなたが幸せになれるとはとても思えない。」


僕の心は大きく揺れた。
複雑な気持ちだ。
絶対に言ってはならないことだと思いながら、反面言ってしまいたい気持ちになる。
それはただ単に力を貸して欲しいという思いと、この苦しい胸の内を明かしてしまいたいという思いのどちらが強いのかはわからない。









それから、長い長い沈黙があった。


それくらい長い時間をかけて決心しなければ、とても打ち明ける気にはならないだろう。
少し、息を吸って、僕は話を切り出した。
それも
すごく単刀直入に。


「僕は、昔浩樹と関係を持ってました。」





芳美さんの目が見開かれる。
信じがたいことに違いない。
それでも僕は言葉を続けた。

「もう、ずっと前から浩樹のことを恋愛対象として見てました。
最初は随分苦しみましよ。だって相手は男だし、弟だし。
けれどいろいろあって、一時浩樹は僕のことを受け入れてくれました。
何回も何回も、僕は浩樹とセックスしたんです。
でもやがてそれが母さんの知れる所になって・・・。
母さんは僕を軽蔑しました。
男の癖に、浩樹を受け入れて悦んでる浅ましい生き物だって。
僕はそれに耐えられなくなって、アメリカに行くことを選びました。
忘れられると思ったんです。
離れて暮らしていれば、やがて浩樹の存在も薄れていくだろうって。
それでも僕は浩樹を忘れることはできなかった。
いや、さらに気持ちは大きくなっていったかもしれないです。
日本に帰ってきてそれがわかりました。
でも僕は浩樹のことを忘れなくちゃいけないっていうのだけは事実で。
そのためにどうしたらいいか、必死で考えた結果のことなんです。」


言いたいことはすべて言った。
芳美さんは僕の告白に、何て言おうか考えあぐねているようだった。


「それ、ちょっと間違ってるんじゃない?」

「そうですね。僕の気持ちは間違ってる。」


「違うの。そういう事を言ってるんじゃないの。
優樹は、一方的に浩樹のことを好きになって、罪悪感にかられているように話すけど、
本当は浩樹もあなたのことを好きなんじゃないの?」


「・・・だから、困るんです。僕のひとりよがりならまだしも、浩樹まで苦しめたくない。」


そう言った途端、芳美さんに抱きしめられた。


「あなたも、浩樹も、随分苦しんできたのね。」


思いがけない言葉だった。


「つらかったでしょう?」


それは、初めて聞いた「赦しの言葉」。


「僕たちのこと、責めないの?」


「責めてどうにかなる話じゃないでしょう。そんなことより、あなたたちがこうして苦しんでいることのほうが私は悲しいわ。
もちろんそれが正しいことだなんて言えないけど。それはあなただって十分わかってるんじゃない?」


「分かってます。いけないことだって。
だからこそ僕のお願い、聞いて欲しいんです。」


「それとこれとじゃ話が別よ。あなたの気持ちもわかるけど、そんなバカな真似・・・。」


「お願いします!芳美さんしか頼れる人はいないんだ。」


気がつくと芳美さんの腕を掴んでいた。
僕は、結構ぎりぎりの所に来ているみたいだ。
必死で懇願することしかできない。


視線が交錯した。
僕の訴えかけるような目と、芳美さんの困ったような目が絡む。
この優しい叔母を苦しめているのが十分伝わってきた。
芳美さんは、深いため息をついた。


「わかった。考えてみるわ。」


「あ・・!ありがとうございます。」


「待って。まだ助けてあげるって決めたわけじゃないのよ。もう少し考える時間を頂戴。」


「わかりました。・・・あの、この話は。」


「分かってる。誰にも言わないわ。」


「お願いします。」


僕は改めて頭を下げた。


「全く、あなたはどうしてこんな大きな事を一人で抱え込もうとするのかしらね。
そんなんじゃいつか壊れるわ。
私はね、あなた達のこと、本当の息子のようにかわいいのよ。」


「ありがとうございます。」


「分かってるなら心配させないで。自分を追い詰める前に私のところに来るのよ。」


自分の周りにはこんなにも支えてくれる人がいる。
そんな人を裏切っているような気がして、少し胸が痛んだ。









アメリカに帰るまであとわずか。
もし僕の計画が成功したら浩樹のことを諦められるだろうか。









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