一ヶ月
side Yuki 08




バタン。





扉が閉まる音が、2人だけの世界を創り出す。ここは、世界のどこからも隔絶された密室になった。
今まさに閉じられた扉を背に、腕を掴まれる。
愛しくてしょうがない浩樹の視線が、僕の瞳を捕らえた。


そして、静かに交わされる。キス。


それは決して浩樹の方から一方的に奪われるものではなかった。
重ねられた唇を受けて、僕は自分から口を開け、浩樹の咥内に舌を割りいれた。
やわらかい唇を味わう暇もない、情熱に身を任せたキス。


欲しくて欲しくて。でもいつも欲しくないフリをしてきたそれを、欲望丸出しにて吸い尽くす。
キスするだけで、涙が出そうになった。


もしかしたら伝わっているかもしれない。キスをしただけで。
僕は、浩樹のことが、すごく好きなんだと。


下唇を挟むと、僕の上唇を浩樹の舌がなぞる。
僕は口という一つの器官が、こんなにも気持ちを伝えることができるのを知った。


涙目になりながらも口でする愛撫に夢中になっていると、しだいにジクジクとした快感が沸き起こってきて声が漏れる。


「はぁ・・・・んんっ」


「優樹・・・優樹・・!」


「ん・・・浩・・・。」


キスに夢中になっていたのは何分くらいだろう。
果てしなく長い時間に感じた。
きっと。
それがいつまでも続いて欲しいと願っていたから。
長い長い口づけを交わし、なおもキスをしながら浩樹は僕のことを軽々と抱き上げた。
俗に言う。「お姫様だっこ」ってやつ。


「あっ・・・。」


それでも僕に反論を与えないように、熱い唇を押し付けたまま、浩樹は部屋の中へと入っていった。
そこは近くにあったたわいもないシティホテルだった。
外は随分と雨風が激しくなり始め、窓を打ち付ける。
うなるような風音がしているはずなのに、僕にはそれが聞こえなかった。
外のことを感じる余裕があるのなら、もっと浩樹を体中で感じていたいから。
聞こえるのはお互いの荒い息遣いと、ピチャピチャという濡れた音。
ツインルームの手前のベッドに僕は優しく下ろされた。
唇を離し、上に乗った浩樹と目を合わす。


「俺、優樹としてもいいのか?」


なおも、浩樹が戸惑いがちに聞く。


「好きにしろよ。」


僕は、そんな答えしかあげられない。
してほしくてたまらないのに、自分から求めてはいけない気がした。
できるのはそういう状況に持っていくことぐらいだ。


「同情?」


「え?」


「バカみたいに兄貴の尻を追っかけてる俺に対する同情じゃないよな?」


君がすきだと。
伝えてはならない。


その、もどかしさ。


身体をくれてやることはできても、この気持ちは危険だ。
僕の、最後の、切り札。


ここで気持ちを通わせてしまっては、今までの努力が無駄になる。
そして、これからも。


だから、決定的な一言は言えなかった。


それでも、心の底から欲していた浩樹と一つになることで。
僕の気持ちは伝播したかもしれないね。


最後の最後で踏みとどまっている浩樹を、僕が自ら絡め取った。

「いいからしろよ。」


それでも、浩樹は動かずにためらっているように見えた。
僕は浩樹の腕の下から逃げ出すと、浩樹を仰向けに押し倒し、Tシャツを捲り上げた。
すぐに均整のとれた厚い胸板が見える。
腹部にちゅっと音を立てて口づけをすると、そのまま下の方へ口をスライドさせた。
インディゴのジーンズの中で、窮屈そうにしているものがあった。
厚い布の上からそっと手で撫でてみると、熱く、硬くなっているのがわかった。
そのまま口でチャックを下ろし、布の呪縛から解放してあげる。
トランクス越しのそれは、やわらかい布を押し上げるようにして存在を主張していた。
その上から、まるで挨拶をするかのように口づけをし、中から取り出した。
今までに何回も見てきた浩樹の中心部。
それでも今日は随分と大きくなっているように感じた。
僕はすごく愛しい気分になって、口に含んだ。


「ううっ・・!」


浩樹がたまらない声をあげる。
それを根元まで咥えると、喉に刺さりそうにまでなっていた。
口元をそのままに、目線を上にやって浩樹の反応を見る。
浩樹は、最高に色っぽい表情だった。
やがて、僕の愛撫を受け入れ始める。
おずおずと延ばされた手が僕の髪を掴み、頭を前後に揺らす。
その摩擦と僕の舌使いによって、浩樹のはどんどん大きくなっていく。


僕は、そうしているだけで自分のも熱くなっているのがわかった。


「優!も・・・だめ!」


「いいよ?だして?」


「あっ・・」


しかし浩樹は絶頂の寸前になって僕のことを引き剥がした。


「何で?口にしちゃえばいいのに。」


「お前の中に出したい。」


そう言って今度は僕の方が下になった。
シャツのボタンを乱暴に外され、胸の突起を口で弄ばれた。
カリカリと痛いくらいに噛んだと思えば、下で先端を左右になぞる。


「あ・・・ん・・・はぁ・・っ。」


浩樹は舌で乳首に愛撫を加えながら、開いた手で僕のズボンと下着を強引に下ろした。
僕も腰を浮かせてそれに協力する。


「優樹もずっとしたかったんだ?ここ、すごい起ってる。ほら。」


「いやぁっ・・・あ・・ふっ・・んっ」


僕の中心はやすやすと浩樹の手の中に納められた。
握られて上下にしごかれると、体中に電流が走ったかのような快感が得られる。
すでに、先端からはとろとろと先走りの液が流れて自らのお腹を濡らしていた。


「どうして俺に抱かれる気になったの?あれだけ嫌がってたのに。」


そう言いながら、浩樹は僕から滲み出たぬるりとしたものをすくって後ろの入り口に撫でつけた。


「ああっ・・やっ・・・。」


「イヤじゃないだろ?ココ、もうヒクついてるぜ。」


浩樹の指がそこの辺りを蠢くと、自分でも痙攣してるのがわかった。
それでも浩樹はそこから先に指を進めようとはせず、入り口をくすぐる。
僕はもどかしくて自ら腰を揺らした。


欲しかった。僕の体の中に。


「どうして欲しいの?そんなに腰振って。」


「あっ・・・いじわる・・・する・・な。」


「だって俺、優樹の考えてることわかんねぇ。急にこんな風に体許してさ。・・・ね?だから口で言ってくんなきゃどうもしてあげられないよ?」


そこに触れる指は、入り口を目前にして動きを止めた。


「んっ・・・。・・・れて。」


「何?」


「入れて・・・。ひろのゆびが欲し・・い!」


「やっと素直になった。」


指は一気に差し込まれた。内側の壁が侵入してきた異物に絡みつく。
浩樹の指先が目指す所はただ一点、知り尽くした僕の一番感じるポイントだった。
そこを、指先でつつく。
それだけで僕の理性は吹っ飛んだ。


「ああっ・・・!ん・・・はぁ・・・・。」


「変わってないね。感じるトコロ。」


やがてその一点を突きながら、指が出し入れを開始する。
内側を擦る快感と、奥を突かれる快感が入り混じってもうわけがわからない。
体の中が熱くて熱くてどうしようもなかった。


指はいつの間にか三本にまで増やされていた。


「んっ・・はぁ、はぁ・・・んっ。」


指の出し入れに応ずるように、僕は夢中で腰を振った。


「やべぇ。優樹。すっげぇイイ顔してる。気持ちイイ?」


そう言った浩樹の声もだいぶ上ずっていた。


「はぁ・・・ん。・・・い・・いいっ。・・・も・・・。ダメ。・・・んっ・・・来て。」


「言われなくても行くよ。もー俺も限界。」


浩樹は僕の足を大きく開かせると、入れていた指で入り口を開いた。
そして、浩樹の熱く昂ぶったモノをそこに当てる。
その熱さに涙が出そうだった。


「優樹・・・いくよ?」


一気に、最奥まで貫かれた。


「あっあああああーーーっ!。」


一瞬、激痛が走った。
当たり前だ、もう何年もこの場所に受け入れていないのだから。
それでも浩樹はどうすれば僕の痛みが和らぐのか知ってる。
痛みを、快感に変えればいいのだ。


「優樹、すげぇ締まってる。・・キツ・・」


「はぁ・・・んっ・・・すご・・・。おっき・・。」


浩樹は激しく腰を進めた。
いろんな音が混じった。ギシギシとベットスプリングが軋む音、肉と肉がぶつかり合う音、結合部分から漏れる粘着音、そしてお互いの荒い息・・・。


一番深くまで繋がった所を一気に引き抜き、再び貫く。
そうやっているうちに本当に浩樹と僕が一つの物体のもののような錯覚を起こした。
本当の意味で、僕らは繋がっていた。


「浩樹・・!んっ・・・はぁ・・・・・ああ!・・・ヒロ!」


「優樹!好きだ・・・・好きだ!。」


僕らの動きは頂点を目指して加速する。
聞こえていた全ての音がさらに激しくなって混ざり合った。


「あっ!ヒロ!・・・もうダメ!」


「俺も・・・。もたねぇ!」


「ひろ・・きぃ!中に・・して!」


「うっ・・!好きだ!」


「ぼく・・・も!はぁ・・・ああっーー!!!」




最後の瞬間、僕も浩樹が好きだと言ってしまった気がする。
自分の中に熱い飛沫を感じた瞬間、それさえもわからなくなって、僕も自分を吐き出した。









このまま、いつまでも。

浩樹と繋がっていたかった。









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