<7>




喉が渇いて、目が覚めた。









随分と長い夢をみていたように思う。
暗くて冷たい夢。そんな漠然とした印象の残る夢だった。
僕は大きな四角い部屋の中にいて、何かを待っている。その部屋には何もなくて、とても無機質な感じだった。
どんなに待っても誰も助けにきてくれなくて、そもそも自分が何を待っているのかさえわからなくて、逃げようと思った。
そして気付く。この部屋にはドアも、窓も何もないことに。
恐ろしくなって壁に駆け寄り、思い切り叩いた。しかし不思議なことにどんなに強く叩いても音がしない。自分の拳が赤くなるのを見て、確かに叩いているはずだと分かるのに。
そして今度は助けを求めて叫んだ。いや、叫ぼうとした、というのが正しい所かもしれない。僕の喉はひきつったような感覚を残すのみで、声が出なかったからだ。息はだんだんと上がってくるのに自分の息の音すら聞こえない。
ただただ、無音で。静寂に包まれることの怖さを知った。









目が開いて天井に焦点が合ってから、自分が眠っていたことに気付いた。


「あー・・・。」


夢の中のように声が出ないんじゃないかと心配になって声を出した。ちゃんと声は出た。喉が渇いているためか掠れた声ではあったけれど。


「やっと起きたね。」


遠くの方から聞き覚えのある声がして完全に覚醒した。
そうだ、和人君とご飯を食べに行ったんだ。それから彼のアパートに行って飲みなおして・・・ってことはそのまま寝てしまったのだろうか。


「ごめん。迷惑をかけ・・・。」


泊まってしまったであろうという非常に迷惑な事態に礼を言いながら起き上がろうとして異変に気付いた。
起き上がろうとしても起き上がれない。手足が動かないんだ。


「何・・・?これ?」


自分が置かれている状況がすぐには飲み込めなくて声を失った。


僕の手足は固い頑丈な紐のようなもので、固定されていたのだ。その枷から逃れようとしても、自らの体が痛いだけだった。


「和人・・・君?何の冗談だよ?これ、解いてよ。僕をからかってるつもり?」


これがタチの悪い遊びだと認識した僕は、笑いながら和人君に声をかけた。
しかし和人君の顔を見て、これが遊びであるという浅はかな考えは打ち消された。
その顔は、僕が知っている和人君の顔なんかじゃない。射るように僕を鋭く睨んだ双眸からは激しい怒りを感じた。まるで、視線だけで焼かれてしまいそうな、灼熱のそれ。
そしてそんな視線を僕に向けつづける和人君の顔は、常軌を逸しているものに違いなかった。


「ごめんね。優樹兄ちゃん。冗談なんかじゃないんだ。」


「じゃあ・・・一体何なんだよ?何のマネだ!?」


見えない恐怖に、僕の声は震えた。そしてそれとは逆に目の前の彼は落ち着き払った様子で僕に近づき、ベッドに腰をかけた。


「優樹兄ちゃんが、例えばどうしても許せないと思う人間がいて、ソイツに復讐したいと思ったらどうする?」


「・・・何の話だよ?全然解らねぇよ。」


怖くて、たまらない。強烈な視線を浴びながらそんなことを聞かれても何て応えればいいのかわからない。


「俺にはね、どうしても憎くて憎くてたまらない人間がいるんだよ。いっそ殺してしまおうかと思ったほどに。でもそうする前に気付いたことがある。今アイツの息の根を止めてしまえばその罪は消えるのか?そんな風に簡単に楽にしてしまうわけにはいかない。だったらもっと別の方法で・・・確実に苦しめる方法はないかってずっと考えてた。」


そこで、言葉を切ると和人君は僕に顔を近づけると僕の髪を思いっきり掴んだ。
引っ張られた痛みが頭皮を走り、僕は顔をしかめる。


「NYで、アンタに会ってさ、閃いたよ。きっと自分が大切にしているものを傷つけられたら、アイツは苦しむんじゃないかってな。だから俺は決めた。俺は、アンタを、傷つけるよ。」


掴まれていた髪の毛をさらにぐっと掴まれてから放された。落された衝撃でベッドに深く沈む。


「何で・・・僕を。何故だ?・・・浩樹か?・・・浩樹が君に・・・何かしたのか?」


言った瞬間、頬をぶたれた。
鋭い痛みがしてから口の中に苦味が広がった。どうやら口の中を切ったらしい。


「アンタは何も知らなくていいんだよ。まぁ・・・そのうち教えてやるよ。アイツが俺に、何をしたのか。」


やはり・・・浩樹が関係していたのか。話の途中から、そんなような気はしていた。浩樹が、和人君をこんなにするまでにどうやって傷つけたのだろう?しかしその問い以上に、今自分の身の上に降りかかっている状況を何とかしなくてはならないと思った。僕は、彼のこの痛みをどうやって受け止める運命にあるのだろうか???


「ここでアンタに薬を盛って眠らせてから、どうやっていたぶってやろうか考えたよ。俺はアンタたちみたいな変態じゃないから男相手に勃たないんでね。まさか強姦するなんてできないと思ってたよ。ま、それでアンタが喜んじまったったら意味ねぇし。でもアンタさすがだよなぁ・・・。」


頬をなぞられ、その先にあった顎をつかまれた。


「実の弟をタラしこんでただけあるわ。眠ってる顔、以外に色っぽかったぜ。眉間に皺を寄せてうなってたけど、嫌な夢でも見てたの?信じらんねーけど、ムラムラしてきちゃったんだよね。」


和人君の唇が、僕の首筋を襲った。ゾクリという感覚は、完璧に嫌悪感の表われだ。


「何する・・・!やめ・・て・・・くれ!」


襲ってくる唇から逃げるようにして首を左右に振った。しかし両手足を拘束された状態ではそれはむなしい抵抗にすぎない。


「いいね、その表情。すげぇそそるわ。アイツもいいもん食ってきたもんだなぁ。」


必死の抵抗も空しく、着衣が剥がされていく。両手首がくくられたままなので上手く脱がせることができなくなった和人君は、無理矢理僕のシャツを引きちぎった。
彼も、上に着ているものを脱ぎ捨て、ガチャガチャという音とともにベルトを外すと、ズボンを脱ぎ捨てた。
その様子を見て、彼が本気なのだと実感した。
僕に反応しているのか、怒りがそうさせているのかわからないけれど明らかに彼は興奮していて、僕に突き刺さるのを今か今かと待ち受けているようだった。


「や・・・。いやだぁっ!。」


再び髪を引っ張られると鼻先に彼の怒張が押し当てられた。それが意味するものは、僕にだってすぐにわかった。しかし生理的な嫌悪感がそれを拒否させた。


「咥えろよ。」


冷酷な声が命令を下す。


「もっとおっきくしてくんねーと、楽しめねぇだろ?アンタの弟はどうか知らねーけど、一緒に暮らしてる外人はさぞかしご立派なモノもってんだろうからさ。」


「・・・くっ・・・知ってるのか?ジェフのこと。」


「あぁ、アンタにこうしてやるって決めてから、一応調べておいたよ。随分幸せそうな生活してるんじゃねーか。あんな風に浩樹を棄ててからもさ。ホラ、誰のでも挿れて欲しくて仕方がねぇって顔してる。さっさとやれよ!」


今まで冷静な声で語られていたのが、急に怒号に変わった。それでも従う気にはなれなくて顔を背けた。


「ふざけるなぁっ!これ以上俺を怒らせるな!!」


背けた頬を殴られた。目がくらむような痛みだ。
僕の顔は、涙を鼻血と、何かわからないようなものでぐちゃぐちゃになっていた。
和人君は俺の口を無理矢理開かせると、彼のモノを思い切り喉に突き入れた。


「ふぐっ・・・うっ!」


目から涙が零れた。生理的なもの以上に、屈辱から来るものが非常に大きい。
もちろん自分がかつて浩樹にしていたような、相手を高めさせるような舌使いなどできやしない。
業を煮やした彼は、僕の髪を掴んでは、自らのモノをしごくように上下させた。


「うっ・・・うっ・・・ぐっ・・・。」


僕の口からは苦しいうめき声しか出ない。その苦しさと反比例するように、和人君は息を上げてきている。


「くっ・・・いいぜ。」


彼のものはますます大きくなり、だんだんと苦い味がしてきていた。動きも早まり、終りが近いことを予告している。
喉をさらに激しくニ、三度突かれてから動きが止まった。ピクピクっと口の中のものが痙攣したと思ったら、喉に向かって熱いものが放たれた。その感覚が我慢できなくて思い切りむせこんだ。


「うぐっ・・・ゴホッ・・・!!」


「アンタも楽しませてやらねぇとな。あんましノってないみたいだし。」


和人君はそう言いながらすっかり萎縮してうなだれている僕を握った。


「何?やっぱりナカじゃねぇと感じないの?しょうがねぇな、ちょっと待ってろ。」


「やめ・・・て。それだけは、お願いだから。」


「いい顔してるね。そんな誘ってるみたいな顔されたらたまんないよ。さっき抜いたばっかなのにもう準備できてきたみたい。俺も元気だわ。」


その言葉どおり、彼の中心は再び反り返っていた。どうやら本気で避けられないみたいだ。
彼は僕の足に結ばれていたロープを解いた。そして、僕の足を自分の肩に乗せ、自らを僕の後ろに押し付けてきた。


「俺男とやったことないから解らないけど、本当はローションとかでほぐしてやるんだろ?でも別にアンタを気持ちよくさせたいわけじゃないからいいよな。このままで。」


ただでさえそのために使われる器官でないそこは、慣らしても多少の痛みを伴うことを知っていた。だから何の前触れもなく犯されるなんてことがどんな苦痛になるかはわからない。
でも、確実な熱さをもってそれは来た。


「あっあっ!いやぁーーーーーーっ!!!」


僕の体が真っ二つに切り裂かれるような痛みを感じた瞬間、今までに出したこともないような悲鳴が喉元を引き裂いた。






体の奥を理不尽な痛みで穿たれながら、何故か僕は浩樹のことばかり考えていた。
この苦しみを・・・彼が感じることがなくて、よかったと。

この狂宴の間、ずっと。






         







2005/3/23












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