「アンタ、浩樹のこと、まだ好きなんだな。」
ふと、そんな言葉が聞こえた。一気に心拍数が上がる。
認めたくない。でも否定しても、これだけ必死に彼を守ろうとしているのだから、僕の気持ちは一目瞭然だろう。
「アイツが他の女とデキてて、子供まで作ったなんて聞いて、平気なのかよ?」
鋭いナイフが突きつけられているみたいだった。
今は遠く離れた場所にいるから実感がないが、実際にその光景を目の当たりにしたらどんな気分になるだろうか?
僕が欲しくて欲しくてたまらなかったもの。それを手にしている女性がいる。
その、変わりに自分はボロボロだ。
「そろそろ潮時かもな・・・。」
その科白は僕にとって嬉しいはずのものなのに、なぜだか胸騒ぎがした。
「俺の最初の目的は浩樹を傷つけることだった。それが、アンタを抱いてると怒りで狂いそうになる。優樹兄ちゃんを苦しめている直接的原因は俺なのに、浩樹がそれを犠牲にして今でものうのうと生きていることが信じられない。俺は、アンタが可哀相なんだよ・・・。こんな、ザーメンまみれになって。」
なんて矛盾した感情なんだろうと思った。けれど、人は誰しも矛盾で構築されているのかもしれない。心の中に相反する様々な感情を押し込めて、それでも生きて。
和人君は一度立ち上がり、部屋の外へ出ると何かを持って再びやって来た。
近くまで来て、それが温かいタオルだということに気付く。
あろうことか、彼はそれで僕の体中についた汚れをふき取ってくれた。
優しくて、でも、哀しいその手で。
「ごめんな。もう、終りにするから。」
それが、何についての"ごめん"なのかは分からなかった。
ただ、僕を見る和人君の目が悲しみに濡れているのを見て、お人よしの僕は彼を抱き寄せた。
自分を苦しめている相手だとは分かっていたけれど、目の前で泣き崩れる彼を見て、何もせずにはいられなかった。
このまま静かに、彼の憎しみが熱を失えばいいと、願いながら。
僕は彼が泣き止むまで背中を撫でつづけた。
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