<11>   幕間〜side JEFF〜




俺の名はジェフ・ロペス。ボストンの大学院で心理学を専攻している25歳。
小さい頃から人なつっこくて、やっぱり人間に興味があるから心理学を選んだんだと思う。
今は研究の傍ら、心理カウンセラーの先生のアシスタントみたいなボランティアをしながら学生時代を有意義にすごしている。(ほとんど雑用だけどね・・・)
自分で言うのもなんなんだけど、顔はまぁまぁいい線いっているんじゃないだろうか。割と恋人はすぐ出来るタイプだし、それがうまくいくか云々は別として、あんまり出会いで苦労したことはない。
とはいっても、男専門なんだけど。
俺は物心ついた時から好きになるのは男だった。いわば生粋のゲイ。
もちろんそれに気づいた時にはだいぶ悩んだし、親にバレた時はケンカもした。
でも長いこと説得していくうちにだんだん俺のことを理解してくれようとしているみたいだったし、俺自身も開き直りってわけでもないけど自分自身に折り合いをつける術を学んだ。
世間からすれば異端かもしれないけど、その分最高の相手と出逢って思い切り幸せになるんだと。
1人の人間を大切にして、幸せにすることのどこがおかしいのか、誰も文句が言えないくらいに。
それからは自分に自信を持つことができた。とは言っても、今のところ俺が理想とする伴侶を見つけられたわけではないけれども。




ところで、俺にはルームシェアしている相手がいる。はるか遠く、海の向こうからやってきた日本人の青年、ユウキだ。
初めてユウキに会った時、彼は学校に通いながら旅行社のアルバイトをしていた。俺もちょっとした小遣い稼ぎ程度にそこでバイトをし、普通に友達になった。
ユウキのイメージは、なんていうか、ハカナイっていうか。俺が今まで東洋人に抱いていたイメージとはちょっと違った。
人種とか国籍を超えてその人なりのパーソナリティが存在するということは心理学を学ぶもののはしくれとして知っていたが、今まで俺が出会った東洋人はやたらしゃべりまくるチャイニーズと、明るくて陽気なフィリピン人だったからな。
ちょっとおとなしくて控えめだったけれど、仕事はちゃんとやるし、芯の強い子だってことはすぐに分かった。
見た目はどうかと問われれば、すごく・・・いやかなり美人。かといってソノ気で近づいたわけではないんだけど、まぁ一応俺の広いストライクゾーンに入ってる感じで。
誤解を招くかもしれないが、俺は過去の経験からノンケの男にはアタックしない方針であったので、そういう意味でもルームシェアする相手としては最良だった。
恋する相手と一つ屋根の下でぬくぬくと眠れるほど俺は枯れちゃいない。だから、何度も言うがユウキは完全なるトモダチだった。

だった---と過去形にしてしまうのは何とも微妙なのだが・・・。ああ、彼と俺はベッドを供にしたこともある。
結局ヤったのか、などといわれればそれまでなんだが。うーん、俺たちの関係は複雑なのだ。
ユウキは昔から、どこか淋しそうな顔をする青年だった。
始めはそれはホームシックからくるものかと思っていたのだが、それも違うらしい。
何か、重いものを抱えているかのような、そんな後ろ暗い表情をするんだ。みているこちらがせつなくなるくらいに。
俺がユウキのリストカット癖に気付いたのは同居してから少し経ってからだ。
俺にはノックせずに部屋に入ってしまう、という昔から母親に怒られまくっていた悪癖があって。
でもまぁ結果的にその悪癖のためにユウキの持つ悪癖に気付けたのだから、たまにはそれも役に立つもんだ。
とにかく、急に部屋に入ったユウキが一身に自分の手首を傷つけていたのを目撃した。
ユウキは何かに苦しみ、そしてその苦しみを昇華しようとしてそういった行為を繰り返していたのだ。
それからの俺は、悪癖を利用してなるべくユウキがそういった行為を起こさないように目を配った。そして俺が精神的な安らぎになれるように、頼れる男になろうとした。
それでもある時その行為がエスカレートして、酷い傷を負ったとき、俺のユウキを大切にしたいという想いは爆発した。
本音で語り合おうと、そう言った俺に、ユウキはその小さい体で背負うには重過ぎる過去を話してくれた。
俺はユウキの過去の一翼を願う決意をしたんだ。
それが恋なのかと聞かれれば、違うだろう。
ただ、ユウキという1人の人間がとても大切で、守ってあげたくて仕方がなかった。
それから俺たちはルームメイトという一線を超えた。恋人になったわけではないけれど、俺が欲しがってた、穏やかな日々を供に過ごせる伴侶となった。




そんなユウキの様子が最近おかしい。
俺たちは恋人という訳ではなかったけれど、最近ユウキにできた恋人とやらに俺は大きな不満を持っている。
ユウキが過去の荷物を少しでも減らして、支えあっていける相手とめぐり合えたならそれはいい。
ちょっと悔しい気もするが、ユウキが幸せになれるなら文句は言わないつもりだ。
しかしユウキの言う、新しい恋人とは酷いヤツらしかった。
多分その恋人とベッドインした最初の晩、早朝に帰って来たユウキは高熱を出して倒れた。
体には酷い虐待の後が凄惨に残っていて、俺はてっきりレイプされたのかと思った。
しかしユウキが言うには、相手は相当なサディストで、でも好きな相手だから大丈夫だと。
本当に何をされてもいいくらい好きなのだと微笑まれて、俺は何も言えなかった。
しかし好きな相手と一緒になれた割に、最近のユウキは見ていられない感じで。
食欲も落ちたし、あんまり眠れてないみたいだった。
そして何よりも過剰に電話のベルを怖がる。好きな相手からの電話がかかってきて、喜びの余りビクっとなってると楽観視できないくらいに、怯えた反応を取るのだ。
相手はそれでも気を使っているのか、必ずユウキの休みの前日に電話をかけてきて、次の日の夜になるまでユウキを放さない。
帰ってくるとユウキは憔悴しきった顔ですぐに眠りにつき、翌朝疲れの取れない面持ちのまま仕事に出かけていく。
これではユウキが幸せになったなんて思えない。ただ、好きな相手を否定されることの辛さは俺にもわかるから、強くは言えないけれど、本当は早くわかれてほしかった。
そして、以前と同じように、俺の腕の中に戻ってきて欲しいと思った。
ユウキとそういう関係をやめてからも、俺の腕は誰も抱いてはいない。
なんだか、そう考えると俺はユウキに本気になりかけていたのかと思うけれど、今となっては虚しいので考えないことにする。
人の気持ちって難しい。研究をしている時以上に、自分の気持ちがわからないなんてな。俺もまだまだ若造なのだろうか。











そして、事件は起こる。
何かが起こりそうな予感はしていた。そんな俺の危惧を尻目に、だ。


TRRR・・・
ユウキの電話のコールがなる。ユウキは、いつもよりは怯えない様子でその電話を取った。
恋人とはうまくいきかけているのだろうか。ここ何日かは、随分と穏やかな様子だったので安心していたのだ。
しかし、ある一瞬にしてユウキの顔色が変わる。


「何だって?・・・もう終りだって、そう言ったじゃないか?僕はそんな終りは望んじゃいない!!」


急に、ユウキが声を荒げた。
終りだとかなんとか言ってるのは、別れ話なのか。しかし、状況がつかめない分会話の内容も理解できない。


とにかく、ユウキが必死になって相手に訴えかけているのは確かだ。


「やめろ!そんなことをしたって何になるんだ!?頼むからやめてくれ!!!」


「ユウキ、どうしたんだ。トラブルか?」


しかし俺が声をかけてもユウキには何も聞こえていないみたいで、必死に電話に向かって叫ぶ。


「やめろぉぉーーー!!」


ユウキの叫びがアパートにこだまする。ところが気付くと電話は切られているみたいで、ツーツーという音が無情に響いている。


「行かなきゃ・・・。」


ユウキは何かに取り付かれたかのように呟くと、着の身着のままで部屋を飛び出した。


「ユウキっ!待て!急にどうしたんだ?」


俺の心臓が警鐘を鳴らす。
何か良くないことが起ころうとしている。そんな胸騒ぎを抱きながら、俺もユウキを追って飛び出した。






         







2005/5/5












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