3.快い悪夢

ぼくが自分の「初恋」に気づいた翌日、姉さんと隆平さんはパリへと旅立って行った。

「それじゃあ出かけるね。ちゃんと戸締りするのよ。学校も休まず行くのよ。あんたはちょっと気分がむかないとすぐズル休みしようとするんだから」

「言われなくてもわかってるよ。姉さんこそ隆平さんに迷惑かけるなよ。」

「私が迷惑かけるわけないでしょう。それよりごはんもちゃんと食べるのよ。ほっとくとすぐコンビニとかで済まそうとするんだから。」

「わかってるってば、今までだってぼくの食事のなんの面倒をみてきたっていうんだよ。自分だって隆平さんが来る前はロクなもの作ってなかったじゃんか。」

「うるさいわねー、私は忙しいの!それに大人だからいいの!あんたは成長期なんだからもっと食べなきゃ駄目よ。なんなの?そのほっそい体は。」

「はいはい。」

もういい加減ウザく感じ始めていた。
さすがに一週間も家を空けるのが心配なのか姉はしつこい。

それよりも今は姉の顔を見たくはなかった。
昨日感じてしまった嫉妬が蘇ってきそうだから。

「…それじゃあ、行ってくるわね。」

「行ってらっしゃい。」

重いスーツケースを引きずりながら姉はエレベーターへ歩いていく。
エレベーターに向かう姉の後姿をみながらぼくはドアをしめた。

疲れる…。

姉の幸せそうな笑顔を目の当たりにしてぼくは朝から妙に神経を高ぶらせていた。

ふとガラスにうつった自分の顔を見るとぼくは愕然とした。
随分ひどい顔をしている。
寝不足の上にどこかつらそうな面持ち。
誰が見てもわかるくらい僕の顔は苦痛に歪んでいた。
ぼくは子供の頃よく女の子に間違われるような、いわゆる中性的な顔立ちだ。
それが今でも残っていて女のようなどちらかというときれいな顔と華奢な体つきが嫌でたまらない。
今日はそんな醜い自分の姿がさらにひどく見えた。

昨日の夜はほとんど眠れなかった。

姉が風呂から出てきてリビングで何かし、そのあとおそらく自分の部屋に戻っていった様子もしっかり耳で聞いていた。
隣の部屋がしん…と寝静まってしまってからもぼくの思考は渦を巻き、目は冴え渡っていた。

結局意識を手放したのは明け方の5時か6時のころだったと思う。
それから姉が出かけるからといって起こされた8時までのほんの3〜4時間の間も安眠していたわけではなかった。

眠ってもすぐに目が覚めてしまう。
眠ったり起きたりを繰り返している間に朝がきてしまったという感じであった。

寝よう…。
体が重くてだるい。

姉さんには学校をサボるなと言われたがこんな状態で学校にいけるはずもなかった。
ぼくは姉がいなくなって緊張がほぐれたのかすぐに眠りの世界へと引き込まれていった。



息が苦しい。

気づくとぼくは誰かに口をふさがれていた。
状況がわからなくて呆然としていると自分の口をふさいでいるものもまた口だということがわかった。
ぼくはされるがままに咥内を犯されている。
あてがわれた唇の隙間を見つけて吐息をもらす。

「…ふっ…」

しだいに相手の舌が侵入してきてぼくの歯列をなぞる。
その感覚に身震いがしそうなほど感じてしまった。

こんなにも激しい口付けを交わしている相手は誰なのか。
ぼくはうっすらと目をあけた。
そして射抜かれる瞳。

ああ…ぼくの唇をふさいでいたのはちょっと厚めの唇だった。
そして見つめているのは意志の強い野性的な男の目。

隆平さん…。

ぼくはさらなる刺激を求めて隆平さんの首に腕を絡ませて唇を求める。
隆平さんもそれに答えるかのようにさらに激しくしゃぶり返す。
しだいに息があがり、隆平さんはぼくの下半身に手をのばした。


「…はあっ…」

ぼくは勢い良く飛び起きた。

また…見てしまった。

姉が旅立ってから5日がたとうとしていた。

あの日からぼくは眠れぬ日々が続いていた。
眠ってもすぐに夢をみてしまう。
それはたまらなく恐ろしいことだった。

夢は決まって隆平さんが出てきた。
時には抱き合ったり、キスをしたり…
まだセックスにまではいたっていないがぼくが妄想するいやらしいことが夢で登場する回数は刻々と増えている。

もしかしたらさらにヤバい夢を見てしまうかもしれない。
そう思うと眠ることができなくなっていた。

さらにこういう夢を見た後は決まって下半身に刺激が欲しくなる。
ぼくは今までそういうことに淡白だったせいかあまりしたことはなかったのだが、最近では夢をみると決まって昂ぶってしまい自らを慰める行為をせざるおえなくなってしまう。

今日も例外ではなくぼくの中心が触って欲しいと反り返っている。
こういうとき頭に浮かんでしまう隆平さんのことを思いながら手を上下することほどつらいものはなかった。
達した時決まって言いようもない寂寥に襲われる。
それにまだ昼間なのだ。
昼間からこんなことをできるのは学校を休んでいるからだった。

あの日から数回学校に行くことは行ったが、授業中も気分がすぐれなくて突っ伏していた。
そんなぼくを友人は心配してくれたけど、ぼくの心にある暗闇に気づくヤツはいなかった。
姉さん達がパリに行った日は体調が優れずに一日中ねていたのだがそれ以降は眠ると夢をみてしまい、それが怖いために眠れなくなってしまった。

せめて食事くらいはと思ってとりあえず腹にいれるものはムリヤリ詰め込んで、普通の生活をしている風を装っていた。
しかし眠れない上に悪夢を見てしまうのが体力を著しく奪っているのも確かで。
毎日気分のわるいまま5日間もたってしまった。

こんな状態で隆平さんが帰ってきたらどうしてやっていけばいいのだろうか。
それがぼくの目下の悩みだった。

隆平さんを忘れるようにがんばる?
これからはもっと会う機会が増えるだろうというのに?

それともひそかに隆平さんを思いつづける?
姉さんと隆平さんの仲を見せ付けれながら?

僕の思考はいつも終わりがなかった。
堂堂巡りだ。
いつまで続くのだろうか。こんな思いは。
恋ってそんなに簡単に捨ててしまえるものなのだろうか。
少なくとも何にもなかったかのようにふる舞える自身がぼくにはなかった。



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