7.偽り

深夜のファミレスで一人で過ごすって意外に退屈だ。
明日の宿題を持ってきたものの、集中できない。
今ごろ家では姉さんと隆平さんも荷物の整理を終えたところだろう。
今日、僕は引越しの手伝いもそこそこに、家を抜け出してきた所だった。
初日からこんな調子でどうするんだろう。
明日からはあの二人と毎日一緒だ。
そう考えるとたまらなく苦痛である。
さすがに僕のいる前ではいちゃついたりはしないだろうけど…。
それよりも姉さんの幸せそうな顔を見るのがつらかった。
嫉妬してしまう…醜い僕。
姉さんの幸せを願っていたいのに。

ため息をついているとウェイトレスが僕のテーブルに料理を運んできた。
今日は引越しをしていたからロクに食べる暇もなく、少しでも食べておいた方がいいと思って適当にパスタを注文していたのだ。
しかし自分で注文しておきながらいざ食べようとすると食べれない。
パスタをフォークにからめて口元に運ぼうとするとふわっと湯気が立ち込め、僕の鼻を刺激した。
と同時にそれを口に入れる力が入らない。
それでも最近食が細くなってきているのに自分で危機感を感じていたためムリヤリ何口か押し込んだが半分は残してしまった。
夜中というのに目もすっかり冴えている。
だんだんと体調が悪化しているのを日々感じているが、もうそういうことに気をまわすほどの心の余裕が僕には無かった。
これからの生活を「ちゃんと」やっていけるのかどうか、言いようもない不安が僕を支配していた。




「淳、これからどこ行くの!最近いっつも夜中ふらふら出歩いて!今日という今日は許さないから。」

僕が夜中に出かけるようになってから2週間ほどした夜、ついに姉さんの逆鱗に触れた。

引っ越してからは隆平さんも忙しく、家にいるほうのことが少なかったがそれでも僕にとっては波乱の毎日だった。
絶対に好きになっちゃいけない人と生活を共にすることがこれほど苦しいとは思わなかった。
以前僕が見ていた淫らな夢は相変わらず出現する。
隆平さんに会うことの多くなった今、むしろその回数は増えているようにも感じられる。
しかも壁をはさんで隆平さんがいる状態では、僕の罪悪感は募るばかりで…。

ある日隆平さんが風呂上りに遭遇した時などは、思い出すのも恥ずかしいほどの過剰反応を見せてしまった。
たくましい胸板をあらわにしてビールを飲む隆平さんを見ただけで、熱くなる。
慌てて自分の部屋に逃げ込んで手を汚してしまった。

日に日に切迫していく想いが強すぎて、睡眠時間は平均2〜3時間。眠れないことも多々あった。
さらにちゃんと食べなきゃと思う分、二人の前では普通に食事をしていても吐いてしまったりすることもあった。
余裕のなくなっていく自分がいる。

今日も例によって一人になりたくて…というより二人の顔を見るのがつらくて家を出ようとしたときだった。

「ちょっと!淳!待ちなさい。」

「なんだよ。」

「どこ行くのよ、こんな時間に。」

「ちょっとコンビニだよ。」

「ウソつかないの。そう言っていっつも朝まで帰ってこないじゃない。」

「芽衣、そんなに目くじら立てないで、淳君の話もちゃんと聞いてあげなきゃ」

すかさず隆平さんがフォローに入る。

「だって前はこんなに夜出歩かなかったじゃない。私たちに遠慮しているの?」

「そんなことない。」

「だったら何なのよ?」

「それは…」

それは…

「…好きな人がいるんだ。」

「えっ?」

「好きな…女の子がいるんだ。夜会ってる。悪い?」

僕はとっさに思いついたウソをついた。

「本当なの?」

「ああ。」

「だからといって夜中に高校生が出歩くのを黙ってられないわ。」

「まぁ、いいじゃないか。少しの夜遊びくらい。もう子どもじゃないんだから。淳君だって好きなヤツの一人や二人いるよな?」

スキナヤツノ…ヒトリヤ…フタリ

あなたが好きなんだ。
そう叫びそうな自分を振り切って僕は偽りを口にし続ける。

「さすが隆平さんは話がわかるよ。んじゃ、僕行ってくるから。」

そういって足早に玄関を飛び出した。

これでいいんだ・・・これで。
一人になった僕の心に、束の間の安堵感と淋しさが訪れた。



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