家を出てどこに行こうか考えあぐねていた時、忘れ物をしていることに気がついた。 慌てて出てきたために財布を忘れてしまったのだ。 …こんな時にサイフかよ。 ちっと僕は軽舌打ちをした。 それでもサイフがないんじゃどこにもいけないし、夜をしのぐことはできない。 しょうがないか…。 決まりは悪いが家に一度戻るしかなさそうだった。 そっと家に入って取ってくればいいだけの話だった。 幸い僕の部屋は玄関から一番近く、二人に顔を合わせることもないと思われた。 玄関の扉をそーっと開け、息を潜めながら家の中に入っていく。 音を立てないように廊下を歩き、自分の部屋のドアに手をかけた瞬間だった。 隣の部屋から何か聞こえる。 悪い予感がして僕は耳をそばだてた。 「っはぁ…ふっ…。」 明らかにそれとわかる息遣い。 そして衣擦れの音。 それを聞いた瞬間僕は凍りついた。 しかし何を思ったのか、僕は二人の情事に興味を示してしまい、 そおっと人の気配のある部屋をののぞきこんだ。 そこにいたのは重なる男女の姿。 隆平さんからの愛撫を受けて、姉は恍惚の表情を浮かべていた。 「あっあっ…ん。いや」 「何がいやなの?すっごい濡れてるよ。やめてもいいの?」 「や…はぁ、ん、やめないで…」 そんな二人を見て僕は身動きがとれなくなっていた。 あちらの方も行為に没頭していて僕の気配なんか気にもしていない。 そしてそうこうしているうちに隆平さんのモノが姉さんにあてがわれた。 激しく出し入れを繰り返す。 本来あるべき男と女の姿だった。 何が正しいことなのか、突きつけられたような気がした。 僕の感情は歪んでいる。 今こうしている最中もだんだんと姉に対する憎悪の念が増してきているのを感じている。 今すぐにでも二人の間を裂きたいと思っている。 そして隆平さんの男性としての部分を自分に埋め込みたいと体中が叫んでいる。 冷や汗がでた。 そして下半身が言いようも無いくらいにうずいた。 僕は、相当変態かもしれない。 自嘲気味になりながら僕は部屋を飛び出した。 これ以上二人を見ていたくなかった。 そして自分を高ぶらせたくなかった。 夜の町を全速力で駆け抜けた。 気が付くと涙が出ていた。 さっきの二人の姿がリフレインする。 そして…行き場を無くした僕という存在。 しばらく無心に走っているうちに、どこだか分からないが公園にさしかかった。 喉を潤すために水のみ場へと急ぐ。 蛇口をひねると冷たい水があふれ出てきた。 蛇口の向きを上に変え、そのままごくごくと飲み干す。 無性に熱い体を覚まそうと、次は頭から水をかぶった。 冷めていく体温と共に、頭の方もすっかり冴え渡ってきた。 今まであの二人がああして愛し合っている所を、想像はしていたけれども目の当たりにすることはなかった。 僕には入れない世界。 そう思った途端淋しさがこみ上げてきた。 僕は…今…一人。 そういった現実がリアルに感じられた。 ベンチへと移動し、腰をおろす。 気づけば取りに行った筈のサイフも手元にはなかった。 サイフを持ってくること自体忘れていたのだろう。 公園の時計は12時をさしていた。 この時間になるとだいぶ涼しくなって来る。 さっき頭から水を浴びたせいか僕は激しい寒さを感じていた。 頭痛がこみ上げる。 最近の中で最も体調が悪い自分を自覚できた。 そんな、最悪の時だった。 僕が「彼」に会ったのは。 僕は彼に救われたのか、彼を救ったのか。 今となってはわからない。 |
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