12.白い日常

ナオキさんと契約を結んでから4ヶ月あまりがたった。
僕は週3回以上はナオキさんの部屋に通った。
平日は学校帰りに。土日に昼間から行くときもあった。
隆平さんが必ず家にいる木曜日は必ずだった。
僕が行くと必ずと言っていいほどナオキさんは家にいる。
ナオキさんは家で仕事をしているようだった。
たまに打ち合わせかなんかで家を空けることはあったがそれもほんの数回だ。
しかしナオキさんが実際どういう仕事をしているかは知らなかった。
僕も聞かないし、彼も話そうとはしない。
仕事をしている部屋にも近づかなかった。

僕が部屋にいくと、ただ一緒に過ごすことが多かった。
たわいもない話をし、テレビやビデオを見たり、音楽を聴いたり。
ゴハンを食べて、そして・・・その後はナオキさんのベッドで。
まるで恋人同士のような生活だった。
していることもそうだが、なによりお互いが恋人に接するように接した。
もちろん僕は今まで誰ともつきあったことがないから想像だけど。
つきあうってきっとこういう感じなのだろう。

だんだんと隆平さんとの関係も落ち着いてきたように思えた。
特に性的な問題では普段ナオキさんとセックスしているために一人ですることも少なくなった。
ナオキさんとした後はぐっすり眠れるので悪夢にうなされることも減った。

とは言ってもやはり僕のこころの中心は隆平さんで・・・
家にいても密かに目で追ってしまう。
会話をしているだけでグラグラした。

しかし姉さんと一緒に居る光景を見るとあの夜のことが思い出されてしまう。
当たり前の夫婦のセックスに嫌悪感を抱いてしまう僕は最低だ。
二人が愛し合っている様子を思い返すだけで嫉妬で胸がチリチリと痛み、吐き気がした。
そうして今の僕には拭いきれない不快感が募った時、どうしようもなくなってナオキさんのマンションを目指した。

姉さんからは未だに外泊が多いとしかられる。
たいがいは言い争いになってしまっていた。

(僕がいなくなったとたんセックスしてたくせに!)

そう言ってやりたい気持ちをぐっとこらえて家を飛び出していた。
やっぱり行く場所はナオキさんのマンションしかなくて・・・悪循環だ。

今日もこうしてナオキさんの部屋を訪れていた。
ナオキさんは仕事中で、仕事部屋にいるみたいだった。
僕は合鍵を使って部屋に入り、白いソファでくつろいでいた。
それにしても本当にこの部屋は白い。
特に今日は天気が良く、太陽の光がさんさんと差し込んでいたものだから余計そう感じた。
この白い部屋の中心で白いソファにもたれていると、しごく不思議な気分になる。

白・・・汚れを知らない色・・・。

汚れてしまった僕には眩しすぎる色だ。
そう思った。
そう思いながらふっと眠くなってそのまま眠りに落ちていった。



昨日の夜は隆平さんが運悪く家にいて、一緒にいることができた。
隆平さんがハンバーグ丼を作ってくれて、姉さんと3人で食べた。
いつもどうりの和やかな食卓。
やっぱり隆平さんは一番料理が上手かった。
ごはんの後、リビングでボーっとくつろいでいると僕にとって最も聞きたくない話を聞かされることになった。
姉さんがかしこまって、

「ちょっと、聞いてくれる?」

何ていうもんだから、すごく大切な話なんだろうと思った。
僕と隆平さんは姉さんの方を向いて何が話されるのかを待つ。
そんな僕の耳に飛び込んできたのは思いもかけない一言だった。

「あのね・・・最近、体調悪くて、病院行ってみたら・・・。私ね、赤ちゃんできたみたいなの。」



この言葉が僕にどれほどの衝撃を与えただろう。

うそ・・・。

誰かウソだって言って。


(姉さんがこんなたちの悪い冗談を言うハズがない。)



じゃあ本当のことなんだ。


(夫婦なんだから当たり前じゃないか)



隆平さんと姉さんが愛し合ってできた子ども・・・


(僕と隆平さんが愛し合うことがあっても子どもだけはつくれない。)



僕の居場所がなくなってしまう。


(始めから僕の居場所なんかないんだ。)



イヤだ。イヤだ!


(ダダをこねたってしょうがないじゃないか。)



イヤ!




「淳!どうしたの、ボーっとして。うれしくないの?」

僕は一瞬トリップしてしまった感情を必死にコントロールしようと必死だった。

「そうだね。僕、オジサンになるのはいやだなぁ。」

ふと隆平さんの様子をうかがう。
隆平さんは生き生きとした目を輝かせてとてもうれしそうな様子だった。

「芽衣!やったじゃないか!いつわかったんだ?」

「今日よ。もしかしたらそうかなーっ思って病院行ってみたのよ。4週目に入ったところですって。」

「そうかぁ〜。俺もいよいよパパになるのか。」

感慨深そうに隆平さんが言う。

「これ、胎内の写真。もらってきたの。」

姉さんがかばんから出したものの中から白黒の写真が出てきた。
モヤモヤしたなかに一つの塊がある。
これが・・・姉さんの中にいる命。
隆平さんの、子ども。

そう思うとなんだか胸がせりあがるような吐き気が襲ってきた。

「ちょっとトイレ行って来る。」

平静を装うようにして席を立ち、トイレを目指す。
個室に入ったとたん便器に顔をうずめ全て吐き出してしまった。
食べ物と胃液のイヤな味が口の中に広がる。
隆平さんが作ってくれたハンバーグも全て出てしまった。

瞬間、僕は笑った。
姉の妊娠を知って吐き気を催すなんて、僕はどういう人間なんだ。
口元を洗面台で洗ったあと自分の顔をみるとひどく醜い人間に見えた。
最低だな・・・。
そしてまた、自虐的な笑みを浮かべた。




「・・・ん。・・・淳!」

どこからか僕を起こそうとする声がして目を開ける。
近くにナオキさんの顔があった。

「・・・・ん。」

「起きた?もう夜だよ。」

「もうそんな時間?」

気が付いたら外は真っ暗だった。
寝ていたソファから身を起こし、窓の方へと近寄ってみる。
この部屋のまどはリビングに面して非常に大きく、外にはキレイな夜景があった。

「ここって東京の夜景がすごくよく見えるんですね。」

うしろからナオキさんが僕を抱きしめて言った。

「そうだよ。あっちが新宿。すぐそこにあるのが渋谷。それと東京タワーとかも・・・ホラ、あそこに。」

「すごい贅沢な光景。」

「うちにくれば毎日見れるよ。」

「エッチ込みでね。」

すこし皮肉っぽく言ってみた。

「それは誘っているの?」

「何てとってくれても構わないですよ。」

ナオキさんが僕を包み込み腕に力を入れる。
ドクンドクンという鼓動の音は、僕の心臓の音だろうか。
ナオキさんは僕の首筋に唇を押し当てながら右手を下半身へと伸ばしてきた。

「・・・う・・ん。はぁ・・・だ・・・だめです。こんな窓際じゃ。」

「大丈夫だよ。誰も見てないよ。」

さらに右手は僕のズボンのジッパーを上げ、中へと入り込んできた。
下着越しに感じるあたたかい手の温もり。
やんわりと中心部分をさすられるだけで息が上がってしまう。

「は・・・イヤ。」

「いい。の間違いだろう?もう固くなってる。」

手の動きはどんどんと艶かしい動きになっていく。
一方僕の首筋に押し当てられた口はうなじを這い、舌先で踊らされる。

「夜景を見ながらこんなことできるなんて贅沢だよね」

「あ・・は・・恥ずかしくないんですか?」

「全然。むしろぞくぞくするね。」

「・・・変態。・・・・あっ!」

僕の変態という言葉に反応したのか右手が掴むようにして力を入れた。

「その変態相手に感じてるのはどこの変態さんかな?」

実際僕はこういう状況でのセックスにかなり興奮していた。
誰かに見られるかもしれない、という不安が一層欲情を駆り立てる。

「今日は泊まっていくんだろ?」

「そのつもり・・ですけど。」

「じゃあ存分に楽しませてもらうよ。夜は長いからね。」

僕たちは夜景をみながらお互いの快楽を貪りつづけた。
だんだんたそとの景色は見えなくなり、お互いの存在しか感じなくなる。
夜の闇に僕たちの吐息は溶けていった。



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