ドクドクと、全身が心臓になったみたいな感覚を覚える。 手や足の感覚はすでになくて、やたらと喉が渇いた。 「僕は・・・隆平さんのこと、嫌いなんかじゃない。」 やっと出した声は掠れていた。 「じゃあ俺に何か不満とかあるのか?あるんだったら言ってくれよ。」 「・・・がう。」 「え?」 「違う!そんなんじゃない。」 (ダメだ。) 「僕は・・・」 (言っちゃダメだ!) 「隆平さんのこと・・・すきなんだ。すごく」 恐る恐る隆平さんの表情をとらえる。 「俺のこと慕ってくれてるなら、どうしてこういうことをするんだい?悩みがあるんだったら相談に乗るよ。」 「違う!僕が言いたいのは・・・・僕は・・・」 気持ちを伝えようとする気持ちと隠そうとする気持ちが交錯しあってうまく言葉にならない。 もどかしさが全身を駆け抜けた。 「僕はそういう風に隆平さんのことが好きなわけじゃないんだ。僕は、恋愛対象として隆平さんがすきなんだ!」 瞬間、隆平さんの目が驚いたように見開かれた。 「隆平さんとキスしたい。それ以上も望んでる。姉さんと隆平さんがセックスしてるなんて、子どもができるなんて考えただけでも吐き気がする!!僕はそういう人間なんだ。気持ち悪いでしょ?そういう対象として見られていたなんて。」 ひとしきりの言葉を吐いた後、しばし沈黙が続いた。 隆平さんも何を言っていいか言葉を選んでいるようだった。 「・・・そんなふうに淳君が考えていたなんて予想もしていなかった。俺も、淳君のこと好きだよ。大切だって思ってる。でもそれはそういう感情じゃない。」 「知ってるよ。隆平さんが姉さんのことをどれだけ愛してるかってことも。」 「ごめん。気付いてやれなくて。でも、こればっかりはどうしようもないってこと、淳君もわかるよね。もっとちゃんとした恋ができるようになるよ。俺も応援してるから・・・」 「ちゃんとした恋って何?僕は本気で隆平さんが好きなんだ!無理だってことも充分知ってる!わかりすぎるくらいに分かってる!」 ここまで言った頃には涙がとめどなくあふれてきた。 嗚咽が止まらない。 自分が何を言っているかすでに分からなかった。 お互いに次の言葉を探していた。 切り出したのは僕からだった。 「・・・こんな弟がいたら、隆平さん迷惑だよね。本当にごめんなさい。もうこんなこと二度と言わない。言わないから・・・代わりに・・・・」 一呼吸置いて言葉を口にする。 「一度だけキスをちょうだい。」 これだけで充分だった。 今まで欲しくて欲しくてたまらなかった唇。 気付けば目で追ってしまっていた。 それにこれ以上のことはさすがに今の僕には要求できなかった。 「わかった。」 隆平さんが何かに決意したように言った。 僕はあふれる涙を拭って、その時を待った。 見上げると隆平さんの意志の強い瞳がまっすぐに僕を見据えている。 ―この瞳に僕は恋をしたんだ。 ふいに今までの記憶が蘇ってきた。 本当に、本当に、好きなヒト。 ゆっくりと目を閉じると近くに体温を感じる。 男を感じる隆平さんの無骨な手が僕の肩を掴んだ。 唇と唇が優しく触れる。 隆平さんの唇は思っていた通りあったかくて、優しさが伝わってくるような、そんな感じだった。 永遠のように感じた。 実際は5秒くらいの短い触れあいだったと思う。 それでも僕の中で何かを決心させるには十分な時間だった。 唇を離して、言った。 「ありがとう。」 そう言うと掴まれた肩から手を外して一目散にその場を離れた。 「淳君!どこ行くの!」 そんな隆平さんの声を後ろに聞きながら、僕は家を出た。 『ありがとう』と言った僕の声が震えていたのを、隆平さんは気付いていただろうか。 |
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