03

あなたがいなくなることが

こんなにつらいなんておもいませんでした







啓太がいなくなった後、ベッドに横たわりながら天井を見つめていた。
不思議と涙はでてこなかった。
感情が麻痺した感覚。
今の俺を支配しているのは虚無感だった。
考えることに疲れ、そのまま一夜を過ごした。
時間の経過も気付かず、ただ天井を見上げていた。
いつの間にか日が出てきて、自分が朝を迎えたことに気付いた。
自分の心とは裏腹の晴天。
僕への皮肉みたいに感じて無性に腹がたった。

今日は土曜日、会社は休みだった。
一睡もしていない体はだるいし、何よりも啓太に顔を合わせなくてすむ。
ため息をしながら起き上がった。
頭がひどく痛い。
あまりの痛さに耐え切れず、再びベッドに横になった。
これは少し寝たほうがいいかもしれないと思った。
疲れていた体は意外と早く睡眠を求めた。


俺が再び目を覚ましたのは夕方の5時だった。
眠ったおかげでいくらか頭の痛みはひいてきたようだ。
そのかわり、心の痛みがじわじわと増してきているのを感じた。
部屋のいたるところに残る啓太の影。
いつも座っていたイス、いつも一緒に寝ていたベッド、小さな雑貨類まで。
何から何まで啓太を思い出させてしまう。
なんだか無性に切なくなって、啓太を失って初めて涙が出た。
一度出てしまったら止まらない。

「っふ・・・・・う・・」

自分が選んだ道だ。今更泣いたところでしょうがない。
きっと俺は啓太を傷つけただろう。
そのことにさらに胸がいたんだ。
これだけでもこんなにつらいのに、もし啓太が朱音と上手くいったらどうなるんだろう。
啓太の幸せを思ってやったことなのに、半分は上手くいってほしくないと思っている自分がいる。
こんなにも自分は嫉妬深く、浅ましい人間なんだと・・・思い知った。

喉があまりにも渇いていたのでベッドから起き上がりキッチンへ向かった。
水を飲もうとシンクに言った時に目に入ったもの。
それは酒類の入ったラックだった。
俺は水を出そうとしていた手を止め、ラックへと手を伸ばす。
その瞬間また一つ想い出が蘇ってきて涙があふれた。

俺は酒は飲まない。というより飲めない。
少し付き合いでたしなむ程度だった。
しかし家のラックには膨大な量の酒類が保存されていた。
これは全て啓太のものだった。
酒が好きだった啓太。時には自分でカクテルを作って飲ましてくれたこともあった。
酒に弱い俺のために、作られた、俺だけのカクテル。
キッチンのすぐ横にあるテーブルで、いつもシェーカーを振っていたっけ。

俺は無性にいたたまれない気持ちになってそのうちの一つの瓶に手を伸ばした。
「ジャックダニエル」
黒いラベルにそう書いてあった酒は、啓太が特によく飲んでいた。

瓶の蓋をあけ、コップに注いだ。
それを、ストレートのまま飲み干した。
口に含んだ途端むせ返るような熱い感覚が襲ってくる。
それでもその琥珀色の液体を流し込んだ。
自分でもヤケになっているな、という実感はあったけれども、啓太の名残を残すものを一刻も早くなくしてしまいたかった。
酒にあまり強くない俺には、最初の一杯だけで充分にノックアウトする力はあった。
しかしそれでも自分が止められなくて、まだ半分以上残っていた酒を、瓶から直接飲んだ。
苦しくて、苦しくて、体が熱くてたまらなかった。
無理矢理に全部を流し込んだ頃には、足がふらふらして自分が立っているという感覚すらつかめなくなっていた。
しかし急に胃の底から湧きあがる嘔吐感から、あわててシンクに吐き出した。
とは言っても昨日から、というより別れを決意した日からほとんどものを食べていなかったので出てくるのは胃液ばかりだった。
吐き気に涙が出そうになりながら、その場にへたり込んだ。
そして、いつのまにかキッチンのフローリングの上で意識を手放していた。







あなたを うしなって つらいと おもうことは

ゆるされていますか


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