06

じぶんのきもちに しょうじきな きみ

そんなきみは ほんとに たいせつだったんだ







目が覚めて自分の置かれた状況をたぶん10秒は考えた。

俺は自分の部屋ではない所でベッドに寝ていて、しかも裸。
隣に寝ているのは昨日一緒に飲んでいたはずの天野先生だ。
この状況を見て、これはもしかして・・・と思った時に生まれた確信。
随分と下半身に違和感を感じる。

ヤっちゃったのか・・・。

きっと自分もだいぶ弱っていたし、酒も入って流されてしまったのだろう。
してしまったことに対しては罪の意識はなかった。
別に、恋人がいるわけでもないし・・・。
自分でそう思ってしまって胸が痛む。

それにしても隣で寝ている先生は、男も抱けたんだ。
俺と違って正常な性嗜好を持っていると思っていたから意外だった。
まぁこのひともオトナだし、こんなことくらい慣れてるのかもしれないけど。
そう思っていると当の本人が目を覚ました。

目を開いて俺の顔を捉えた瞬間、先生の顔色が変わった。

「ごっごめんなさい!こんなつもりじゃ」

やられた俺よりあわてているかもしれない。

「先生、落ち着いて。別に怒ったりしてないから大丈夫ですよ。」

「でも・・・その、傷ついてる篠崎さんにつけこむみたいに、押し倒しちゃって。」

「いいですよ。お互い酒が入ってたんだし。」

「そうですか・・・。」

そういって、先生は俺の方をじっとみつめてくる。
本当にこの人はキレイな人だ。
身長は俺より高いし、体つきもしっかりしているけれど、顔のつくりがすごく端整だ。
そう先生の顔に見とれているうちに唇を奪われていた。
今度のキスは正直驚いた。
お互い酒が入っているわけではない。シラフで・・・だ。

「まだ酔ってます?」

「酔ってなんかいません。ただ、こうしたかったからしただけです。僕は・・・ずっと前から篠崎さんのことが欲しかった。」

突然の告白。
一瞬先生が何を言っているか理解できなかった。

ずっと前から?そんなこと・・・。
俺が啓太のことをいろいろ相談していた頃もだって言うのか?

そのことが真実だと物語るように、先生の目はまっすぐに俺を見据えていた。
瞳の奥に欲望の炎がチラリと浮かぶ。

「あなたが、啓太君と別れてすぐだってことは充分分かってます。
僕は前から相談を受けてきたし、昨日だって篠崎さんの想いは充分伝わってきた。
でも俺の方にもたれて泣いている篠崎さん見てたら・・・その・・止まんなくて。
無性に欲しくなってついつい求めてしまった。
酒の勢いでしてしまったことだけど、この気持ちは本当なんです。」

「いつから・・・。そんな風に想っていたんですか?」

「始めは一目ぼれでした。それに話してみて楽しかったし、一緒にいるとドキドキした。
僕はもともとゲイじゃないし、最初は自分の気持ちを否定していたんだけど。
そのうち篠崎さんから啓太君のことを話してもらった時に気付いたんです。
僕は、この人のことが好きなんだって。
気がついたらいつもあなたのことばかり考えていた。
それに・・・腹の底では啓太君に対する嫉妬心が膨れ上がってきていた。
それでも僕はあなたから得た信頼をなくさないように、そればっかりを考えていいひとを演じてきた。
僕が二人の間に入ることができないということは目に見えて分かっていたし。
だけど、啓太君という存在があなたの中に未だ存在するとはいえ、二人は別れた。
その事実が僕のこういった行動につながったのかもしれない。
僕のこと、そういう意味で好きじゃないってことは分かっています。
それでも僕はあなたが好きだ。
だから・・・。
あなたが啓太君を忘れる手段としてでもいい。
僕を都合のいいように利用してくれてかまわない。
僕と付き合ってもらえませんか。」

あまりにも正直な告白。
俺は天野先生のこと、信頼していたし、尊敬もしていた。
そんな人からこんなに素直な気持ちをぶつけられたら、なんて言っていいかわからない。

「だめですか?」

わずか数センチのところまで顔を近づけて天野先生が回答を求める。
こんな至近距離で美形の人間に迫られたら断る術は残されていなかった。

「わかりました。」

そういって一秒もたたないうちに俺の唇は奪われていた。
目覚めてから二度目のキス。
それは一度目のよりも濃厚で。
決して朝には似つかわしくないものだった。
想いの全てをぶつけるような情熱的なキスに、俺の思考も溶かされていた。
いやなことも忘れられる。
一瞬の快楽に溺れていくだけで・・・。




目覚めると夕暮れの光が部屋に差し込んでいた。
朝の告白から、先生の勢いは止まらなくて。
朝っぱらから俺たちは何回も身体を繋いだ。
会社には風邪と偽ってサボってしまった。
先生は今日は昼頃から病院に行き、当直だというので今日は帰ってこない。
アレだけ寝てなくて大丈夫なのだろうか?と少し心配になったりしたが。
頭がぼーっとしていて上手く思考がまとまらない。
セックスの後の気だるさが抜けないのだ。

先生とのセックスは凄まじいものがある。
啓太とのセックスは、激しくて、情熱を一身に向けるといった感じ。
それとは違い先生は俺を優しく抱く。しかし医者というだけあって人の身体を知り尽くしている。
何が凄いのかってテクニック、だ。
昨日まで啓太のことを想ってやまなかった俺だが、与えられる快楽にはこんなにも素直に反応してしまうのだと思うと哀しくもある。
俺は、結局誰でもよかったのだろうか。
そんなことを思いながら、けれども何か満たされないものを感じながら
浅ましい身体の持ち主である自分に自虐的な笑みをもらした。







じぶんのきもちに うそをつきつづける おれ

やっぱり きたない いきものなんだね


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