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ながい ながい ゆめをみていた







「貢、どうして順位を落したの。今までずっとトップだったじゃない。」

「そうだぞ、高校受験を控えている大事な時期に何をしてるんだ。」

母と父両方からの叱責を受けて、中学3年の兄は少ししゅんとした顔をして下を向いている。
貢は今までずっとキープしてきた学年トップの座を、期末テストで明渡したのだ。
これは両親にとっては今までにないことだったし、あってはならないことだった。

「ごめんなさい。ちょっと部活をがんばりすぎたから。でももう部活も引退したし、ちゃんと勉強します。」

「そうよ。いくら内部受験だからと言って、気を抜いてはいられないのよ。」

兄・貢は全国でもトップクラスの中学に通っている。
そして、その中でも常にトップをキープし続けてきた天才だった。
ちなみに俺も今年の春になんとか同じ学校に入学したばかりだ。
成績は良くはない。が一応中の上くらいは保っていた。

「要の成績も見せてみなさい。・・・ほう、よくがんばったじゃないか。」

よくがんばった?

俺の成績は悪くないけど決して良くはない。
この前のテストではがんばって50位以内に入ったけれど、今回の成績ではそこから20番も順位を落した。

それでも、いいの?

俺は怒られなかったことへの不信感を覚えた。

「でも、俺順位落したし・・・」

「そんなの次がんばればいいじゃない。あの学校でこれだけの順位だったらそこそこいい方よ。」

「けどさ・・・。」

「要はいいよね。そんな成績でも怒られないし。俺は2位でもこんなに怒られなくちゃならいんだよ。」

「貢はそんな憎まれ口叩いてるヒマあったら少しは勉強したらどうだ?」

「はいはい。わかりました。」

兄はそう言ってリビングから出て行った。
俺はそれを追うようにしてリビングを出て自室へと向かった。
扉を閉めたそばからへたり込む。

俺・・・今まで怒られたことない?
俺・・・今まで勉強しろなんて言われたことない?

ずっと前からうすうす気付いていた。 しかし中学に入って、貢と同じフィールドで生活するようになってその思いは確信へと変わった。

父さん、母さん・・・

俺に興味ない?

俺は

必要・・・ない?


イテモ、イナクテモ・・・










遠くの方で物音がする。
ぼんやりとそれを聞いていた。
きっと、誰かが帰ってきたのだろうと心のどこかで思いながら。
それもどこか遠い世界のことのように感じた。

喉がすごく渇く。

水が飲みたい。
水を飲みに行こうと身体を起こしかけるが身体が動くことはなかった。
それどころかまぶたも開いていない状態で。
鉛のように重い体だ。

あれ?おかしいな。
どうしちゃったんだろう、俺の身体。
まるで金縛りにあっているみたいに動かない。

渾身の力を振り絞ってまぶたを開けると、そこには見慣れた天井が見えた。
手を、伸ばしてみる。

力なく挙がった自分の細い腕が視界に入ってきた。

遠くの方で聞こえていた物音がやがて近くなってきた。
おそらく扉が開く音と同時に隣の部屋から一筋の光が差し込む。

「要さん・・・?起きてる?」

誰?俺を呼ぶのは。

「またこんな暗い部屋で横になってたの。駄目じゃない、ごはんちゃんと食べて下さいね。」

ダレ?

「要さん。今日はお客さんが来てるんですよ。会ってもらうから。」

存在が認識できないまま、朦朧とした意識の中での会話は全く頭にはいらない。

「要さん?」

相手は俺の異変に気付いたらしく、語調が厳しくなった。

「要さん!!しっかりしてください!どうしたんですか?」

突然目の前の男が突然はじかれたように部屋のゴミ箱へと向かった。
ゴミ箱からは今朝俺が飲んだ薬を包む子袋がいくつも入っていた。

「大変だ!これ全部飲んだんですか?・・・まずいな。」

そう言うと携帯電話を取り出しどこかへかけはじめた。

「ええ・・・天野です。はい。今から急患連れて行きます。・・・はい。・・・・才の男性・・・す。」

ああ、今目の前にいるのは天野先生なんだと初めて気付いた。
そして意識はさらに混濁し、だんだんと言葉が聞き取れなくなっていった。

「・・状は、薬物誤飲で・・・。・・・の準備お願いします。」

目の前がだんだんと暗くなる。

「天野先生、どうしたんですか?」

「大変なんです。要さんが安定剤を飲みすぎて・・・。」

「何だって?おい!要!聞こえるか?」

力強く肩を抱かれている感覚があった。
それはなぜかとてもなつかしく。

掴まれた手のあったかさが伝わってきた。

光を失いフェードアウトする、景色の中で。


一番愛する男の顔が見えたのは、なぜだろう。







ながい ながい ゆめのなかで

やっと あなたに あえたね


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