22

どんなことが あっても

あなたを まもるって きめたんだ







「何・・・してる・・・の?」

聞いたことのある声が俺達の耳に届いた。

病室のドアの前に立つのは二人の人物。
一人は、上品にスーツを着こなした俺の兄。
そしてもう一人は、おそらく声の主だと思われる、俺の従妹だった。

そして

僕はぎゅっと抱きしめられた啓太の体温の中で、彼らと視線を合わせた。

それは、言い訳のできないような密着した体勢で。
男同士がする行為としてはあまりにも不自然なものだった。

「ねぇ啓太さん。何してたの?・・・・要ちゃん?」

問いただす朱音の声は震えていた。

俺は、情けないことに声も出なかった。

「朱音ちゃん・・・。ごめん。君にはちゃんと話すつもりだった。」

俺を抱く手を放して啓太が口を開いた。心なしか声が震えていたような気がする。

「ちゃんとって何?何それ?全然わかんない!」

朱音は随分混乱した様子で声を荒げた。
急に朱音がベッドの傍らの啓太の腕を掴む。

「朱音、落ち着くんだ!」

今まで状況を見守っていた貢が朱音を制止する。

「啓太君、要。今の状況なら、まだ言い訳はできると思うんだが・・・。認めるのか?」

「朱音ちゃん。今日君に、やっぱりお付き合いできないと言うつもりだった。俺は本当は・・・」


パシン


病室に渇いた音が響いた。

それは掌が頬を打ち付ける音。

遠い所でその音を聞きながら、俺は自分の頬が異様な熱を持っていることに気がついた。
殴られたのは・・・俺だ。

「ふざけないで!男のくせに平気で人の男とらないでよ!」

朱音は俺を殴った手でそのままパジャマの胸倉を掴み、体ごと揺さぶった。

「朱音ちゃん、やめてくれ!要は悪くない!」

啓太は俺に掴みかかる朱音を引き離し、手首を掴んで制止させた。

「放してよ!汚い!汚いわ!」

朱音は啓太の手を弾くと顔を覆って嗚咽を漏らした。
きっと、彼女にとっては今までにない屈辱であったであろう。

「朱音・・・ごめ・・ん。」

「要ちゃん・・・今日は要ちゃんが入院してるって知って飛んできたのよ?それなのに何?啓太さんは私の恋人なのよ?こんなことして許されるって思ってるの?」

「ごめん・・・。」

完全に頭がパニック状態に陥った。
どうしよう、どうしよう。
そんなことばかり頭を廻る。
長いこと沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは怒りの声だった。



「・・・ってやる。叔父様に言ってやるから!」




俺が一番恐れていた言葉が聞こえた。

その瞬間俺の中で一本の脆い糸が切れるような
そんな音がした。

俺は自分の頭を抱えた。
そして、無意識的に言葉を紡いだ。

「それだけは・・・やめて・・。朱音を傷つけた・・・それはわかってる。ごめん・・。」

「ごめんなんて。謝ればいいって問題じゃ・・・」

「ごめんなさい。だけど俺は啓太が好きで。・・ずっと前から好きで。
本当は、付き合っていたんだ。ずっと前から。そう・・・もう何年も。」

「そんな!じゃあ二股かけられてたの?」

俺は何回も首を振った。

「ち・がう。俺が・・・勝手に不安になって、勝手に別れた。俺は他に男の恋人を作った。けどやっぱり啓太が忘れられなくて・・・。俺が・・・悪いんだ。朱音と付き合ってるのを知ってて、取り戻そうとした。」

「ひどい・・・、それに汚い。要ちゃんも、啓太さんも。ホモだったんだ・・・。それに、私を巻き込んだのね。」

「ごめん。」

俺の自白を朱音以外の二人はじっと聞いていた。
誰もが、この泥沼がなんとか静まることを望んでいた。

「許さない!絶対にこのままじゃ許さない!」

「朱音ちゃん!違うんだ。要が悪いんじゃなくて、俺もやっぱり要が好きだから戻りたいんだ。君には・・・本当に誠実じゃなかった。謝っても謝りきれない。俺のことはどうしてくれてもいい。」

「啓太!」

「私は二人とも許さないわ。何なの?二人して庇い合って!このままですむわけがないでしょう。」

俺は朱音に許しを請うように縋りついた。

「お願いだから!親父には言わないでくれよ。・・・頼むよ。・・頼む。」

縋りついた腕が震えていた。

頭が痛い。

急な感情の発露にストライキを起こしたみたいに、ズキズキと頭が痛む。

変な汗が出て、体が正常な状態ではないと危険信号を発していた。

けれどいつまでも弱い自分ではいられない。
ここで逃げたらまた俺は駄目になる。

それに、啓太を守るって決めた。

そんな強い意志が今の自分を動かす。

「ごめん・・・ごめん・・・。」



最初に異変に気付いたのは貢だった。

「要?」

目の前の景色がだんだんと歪む。
だんだんと五感は曖昧になっていった。
しかしそれとは別に自分の荒い息遣いが聞こえた。
手足が痙攣し始める。

「要!どうした?」

「お願い・・・。許して。・・頼むよ・・・。」

俺はまるでそれしか知らないかのように必死に懇願しつづける。

周りがだんだんと慌ただしさを増してもそれに気付く術はなく。

「要!しっかりしろ!」

急に誰かに肩を捕まれた。

「あ・・・う・・・。・・・・・して・・・。ごめん。」

体が引きつって、声も出ないのに
許しを請う言葉だけを口にする。

壊れた人形のように。

どうしよう。
啓太を守りたいのに。
体が動かない。声が・・・でない。

部屋に白衣を纏った人が数人入って来たのが見えた。
その数秒後、腕にチクリとした痛みを感じると共に意識は途絶えた。







にげるわけには いかないんだ

あなたを まもるって きめたのだから


  
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