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あなたと いっしょに いきたいと ねがうのは

おれの わがままですか?







こんな泥沼劇が、本当に起こるなんて。
まるで昼ドラでも見ている気分だ。

篠崎貢は深くため息をついた。

要が痙攣を起こして倒れた後、いとこの朱音もショックから貧血を起こして倒れた。
今は空いている部屋に朱音を寝かせ、そこについてる所だ。

貢は、小さい時から可愛がっていたいとこの青白い顔を見つめながらいろいろなことを考えていた。

率直な感想を言えば、「びっくりした」。この一言に尽きる。
何にびっくりしたのかと言えば、当然だが要が西垣君とそういう仲だったこと。
よりにもよって男で、朱音が想いを寄せている男だなんてやっかいで仕方がない。

そしてもう一つ。

実の兄ともあろうものが、弟があんなに必死になる姿を初めて見たのだ。
要は貢にとって、当たり前のように弟として大切に接してきたつもりだった。
けれど実際要のことをあまり知らない自分に、やっと気付く。
隠していたせいもあるが、当然西垣君との付き合いも知らなかった。
そしてそれ以前に要があんなに「熱くなる」ことを知らなかった。
思い返すと、記憶の片鱗に要の人間らしい姿が浮かんでこないのだ。
取り立てて問題を起こすこともなく、まっすぐに育ったと言えるかもしれない。
どこか、いつも冷めていた要。

なんだか胸の中でつっかえるものを感じた。
要が何かに興味を示したり、それに夢中になる姿を見たことがない?
それはとても「異常」なことなのではないか?・・・と。
そして同時に両親も、自分と同じように要の人間らしい表情を見たことないような気がしてならなかった。

こんな風になったのは?何のせいだ?

貢の目の前で朱音が寝返りを打つ。
正直、貢はこの愛らしい朱音という女性が好きだった。
それは恋愛の好きとは呼べるものではないかもしれないが、朱音の我儘なら昔からなんでも許せた。
良い家に生まれて、苦労を知らずに育った朱音。
喜怒哀楽が激しくて、我儘なところもあったがそんな所も貢は可愛いとさえ思っていた。
朱音も朱音で、昔から自分にはよく懐いていたし。
その美貌は年を重ねるごとにだんだんと大人の女性のものに変貌し、最近では連れて歩くのが自慢になっていた程だ。
西垣君と付き合い始めたと知って、正直寂しかったが彼なら社内でも評判のいい男だし、仕事ぶりは言うまでもない。
貢は祝福していた。このままうまく結婚できればいいなと、そう思っていた。

それがここへ来て思わぬ展開になってきた。
始め抱き合う二人の姿を見たときは、「まさかな。」と思った。
しかし西垣君はそれを否定しなかった。
ある意味彼のそういう所を貢は気に入った。
もし言い訳でもしようものなら、朱音も要もどちらもくれてはやらないとさえ思う、

最初は要と西垣君に怒りを覚えた。
けれどあんなに必死になっている要の姿を見て、複雑な気持ちになった。
どちらの味方につくかなんて決められないくらいの形相だった。

「困ったもんだなぁ・・・。」

貢ぐはそう一人で呟きながら、病室の外の青空を眺めた。






同じ光景を見たことがある。
そんな変な感覚を覚えながら目を覚ました。

目を開けてみると実際に見たことがある光景だった。
病室の白い壁と、心配そうに覗き込む啓太の顔。
もう逃げないって決めたのに、またしても意識を手放してしまったらしい。
俺がのうのうと意識を失っている間も、啓太にいろんなつらい思いをさせているのだと思うと悔しくてたまらなかった。

「あか・・ねは?」

「ああ・・・。あの後軽い貧血を起こして、今は空いてるベッドで休んでる。貢さんがついてるから。」

「そうか・・・。どうして朱音はお見舞いに来たんだろう?」

「そりゃイトコだからだろ?」

俺は首を2、3度振ってそれを否定した。

「俺が入院していることは誰にも言ってないんだ。だから両親も知らないはずなんだ。」

「じゃあ、貢さんがどこかで噂を聞きつけたんじゃないか?」

「そうかもしれない。だとしたら、両親がそれを聞きつける可能性も・・・あるかもしれないな。」

俺たちの間に変な沈黙が流れた。
状況が変わった。
最低最悪な形で朱音に知れてしまった。

今、俺たちは先の見えない閉塞された環境の中で息をすることすらままならなかった。

どうしたらいい?
もう、俺たちはダメなのか?

「選べよ。」

長い沈黙の末、啓太は口を開いた。

「俺は、別に周りに知れたって構わない。いずれ話そうと思っていたんだから、それが早まっただけのことだ。だけど要にとっては家族を失うかもしれないリスクも抱えてる。だから俺は強制することは・・・できないよ。」

「俺たちのことを親父に言うとしたら、俺は家族を失い、啓太は仕事を失うかもしれない。もしなんとか朱音に言わないでいてもらうとしたら・・・きっと俺たちはこのままじゃいられないだろうな。もし朱音が何も言わないとしたら、おまえが朱音のもとに戻った時だ。」

「やっぱり、朱音ちゃんは許してはくれないだろうか?」

「そりゃそうだ。恋人を取られただけならまだしも相手が男で、いとこだなんて。」

「すべてを失うか、お互いを失うか。・・・究極の選択だな。」

啓太は苦渋に満ちた表情で言った。

「啓太を取る。」

さっきまではあれほど父親への発覚を恐れていたのに、今は決心ができていた。

「は?」

「だから啓太を取るっていってんだよ!」

「おい、そんなこと簡単に決めていいのかよ?」

「簡単なんかじゃない。重大な問題に違いない。だけど・・・。俺には啓太を取ったら・・・何も残らないから。」

「要・・・。」

「知ってた?俺の人生はお前が現れるまで、死んでたんだ。」

そう。
俺は今まで家族にも関心を持たれず、その長い生活の中でひっそりと静かに生きる術を身に付けてしまっていた。
そんな俺を変えたのは、他の誰でもない。啓太なんだ。
一度啓太を失って、俺はそのことに気付いたんだよ。

「啓太がいてくれないと、俺は本当の自分でいられないから。」

そう言った俺の顔は今までの弱い自分のものじゃなかった。

啓太は俺のとって「唯一」の存在であることは間違いないから。

「要は強いな・・・。俺でも正直ビビってんのに。」

「朱音には心の限りを尽くして謝るよ。それで分かってもらおうなんて思ってはいない。それで親父にも話すよ。全てをね。それで、親子の縁を切られてもしょうがないと思ってる。」

「もし、何もかも失ったら。・・・。」

啓太の瞳がとまどいがちにうつろう。
やがて焦点が合って、ひどく非現実的に思えるようなセリフが降ってくる。

「一緒に、どこかに行こう。二人だけで、遠い場所に行こう。」

まるで、昼ドラでも見ている気分だ。
社長令嬢と社員の若者とのかけおち、なんて。
まさか自分がこんなにドラマティックな人生を送ることになるなんて思いもしなかった。

何か夢みたいだ。
全てに絶望して<生きている>気がしなかったのはつい先日のことなのに。
今は啓太と一緒に生きることに必死だ。
俺のことが原因で、啓太が傷つくなんて本当は絶対嫌だ。
けれど今の俺は啓太を手に入れるためだったらそれさえも受け入れる覚悟はできている。

結局、残酷なのは・・・俺だ。







あなたと いっしょに いきたいと ねがうのは

ざんこくな ことですか?


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